身元保証人がいない(弁護士杉浦宇子)
身元保証人がいない 【2019年4月号】 弁護士 杉 浦 宇 子
私は、弁護士になった頃、当時まだ今ほど社会の耳目を集めていなかった児童虐待事件にほぼボランティアで献身的に関わっていた奇特な先輩弁護士たちに出会い、私も手伝いとして関わらせてもらって以降、不適切な養育を受けた子どもの保護・自立支援に関わり続けています。
子どもの支援活動をしている中で、春の時期、特に問題になってくるものの1つに「就職する際の身元保証人」問題があります。
1 身元保証人とは?
日本では、就職する際、被用者側は、使用者側から身元保証書を差し入れることを求められることが多いです。
では「身元保証」は何を保証することを求められるのでしょうか。
「身元」というのだから「その人の身上」が、確かに会社に申告されたとおりですよ、と保証すればいいのかというと、そういうものではなく、その被用者が「忠実に会社の業務に従事する」旨を保証すると共に、「被用者の行為に因り使用者の受けた損害を賠償する」旨を保証することを求められるのが一般的です。
2 誰が身元保証人になる?
このような内容が、あまり限定もなくさらっと書いてある「身元保証書」に、何の躊躇もなく署名押印できるのは、恐らく、正に今雇われようとしている被用者の近しい親族くらいでしょう。保証すべき損害賠償責任の範囲が限定されていない規定だったりすると、解釈によっては賠償責任の範囲がどれだけでも大きくなりかねないため、近しい親族であっても躊躇するでしょう。
これが、虐待等の家庭での不適切な養育により保護されて家庭から離れて生活している子どもたちとなると、就職活動を頑張って、内定をもらえたとしても、親族には頼れませんから、一体誰がその子の身元保証人になるかの問題が浮上するわけです。
「これこれこういう理由で、この子には身元保証人になれる人がいません。」と就職先に申告したらどうなるでしょうか?私は、そのようなことをしたという事例を聞いたことがありません。申告してもし内定が取り消されたらとの不安が大きいので、そんな危険を冒すより必死で身元保証人になってくれる人を探すことになるのでしょう。
児童相談所や児童養護施設、自立援助ホーム等、家庭から保護された子どもたちの生活を支援する児童福祉の現場をはじめ、子どもたちが生きるこの社会では、身元保証人問題にどう対処しているかというと、未だに子どもが安心できる支援方法は確立されておらず、不十分ながら存在する保険を使ったりしながら、個々人や個々の団体の献身によりなんとかやり過ごしているというのが現状です。
3 個人根保証の制限
実は、身元保証については、「身元保証に関する法律」により、契約期間や使用者の通知義務、保証人の解除権等が定められており、保証人が予想を超えた過酷な債務の負担を強いられないよう一応配慮はされているし、民法改正により保証人保護が強化されることにはなっています。もちろんそれも有り難いですが、根本解決にはなりません。社会的養護を受ける子どもが、社会から排除されているような感覚をもたなくても就職できる流れが望まれます。