スクールロイヤー ~子どもの権利を基盤に【2019年10月号】弁護士杉浦宇子

1 はじめに


 『スクールロイヤー』という言葉を聞いたことありますか?最近では、文科省が学校現場で起きる
いじめ等の問題に対応するために『スクールロイヤー』を全国に300人配置する方針を固めたとの報道がなされています。少し前に、テレビでもスクールロイヤーが主人公のドラマが放映されました。ご覧になった方もいるのではないでしょうか。


2 スクールロイヤーは誰の味方?


 よく耳にするようにはなった『スクールロイヤー』ですが、皆さんは具体的にどのようなことをする弁護士を想像しますか?
 実際には、学校現場においても、弁護士の側においても様々な意見があり、特定の定まった定義はありません。直訳すると「学校弁護士」ですから、学校の組織や教員の利益のために動く弁護士なのではないかと思っている方もいるのではないでしょうか。弁護士が学校の味方になると想像してしまうと、学校以外の当事者が不公平感をもってしまい、当事者間の対立が激化して、とても問題解決に結びつかなくなってしまいかねません。


3 子どもの視点に立った解決こそが「学校の利益」


 「スクールロイヤーには学校現場を理解し教員のニーズを理解した活動が求められる」と言う識者もいますが、やはりいじめ等の学校問題に弁護士が関わるときに一番大事なのは「子どもの視点に立つ」ことだと思います。
 学校は子どもが自分らしく成長する場のひとつです。学校で問題が起きて子どもにとって安心して居られる場所でなくなったのなら、再び学校を子どもが安心して居られる場所にしていくのが一番の問題解決だと思います。子どもの視点を置き去りにして、大人が単に法律論を駆使して違法適法を切り分けるような議論をするだけだと、当事者を分断して対立を深めるだけで、問題に巻き込まれた子どもたちにとって学校が安心な居場所となることはありません。
 対立して見える大人たちにとっても、「子どもたちにとって学校が安心できる学び成長する場になる」ことは共通の目的であり、その目的に近づくためであれば協働しあえる可能性は広がるのではな
いでしょうか。
 スクールロイヤーは、一番に問題を子どもの視点から考えて学校に助言することで、関係者同士の対立が激化する問題を減らすことも可能になると思います。


4 子どもの視点とは


 日本も批准している子どもの権利条約(今年成立30周年)は、子どもは単に保護や教育の対象・客体ではなく、子ども自身が権利をもって自分の権利を使うことができる権利行使の主体であると認める子ども観に立っています。条約3条には子どもの最善の利益が考慮されること、12条には子どもの意見表明の権利が保障されることが規定されています。
 子どもの最善の利益とは何かを子どもの話に耳を傾けて考えて行く子どもの視点を、学校問題の取組に注入していくスクールロイヤーでなければ設置する意味は薄いかもしれません。