所有者不明土地問題について(今井千尋弁護士)

所有者不明土地問題について 【2019年1月号】 弁護士 今 井 千 尋

 昨年6月に所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(以下単に「特別措置法」といいます。)が成立したこともあり、最近、所有者不明土地問題に関する報道を目にすることが多くなっており、私自身も関心を持っています。そこで、今回は、所有者不明土地問題について紹介します。

 

1 問題の所在・現状

 昨今の人口減少や高齢化による土地利用ニーズの低下等により、所有者不明土地の数が全国的に増加しています。国土交通省が平成28年度に実施した地籍調査によると、調査対象となった622,608筆のうち、不動産登記簿上の所有者等への通知が到達しなかった土地は125,059筆(約20.1%)に及び、戸籍や住民票等を用いて探索してもなお所有者の所在が不明であった土地は2,526筆(約0.41%)だったとのことです。また、法務省が実施した「不動産登記簿における相続登記未了土地調査」によると、約100,000筆を対象として調査したところ、最後の所有権登記から50年以上が経過しているものが大都市で約6.6%、大都市以外で約26.6%もあったとのことです。  

 これらの状況から大きな社会的損失(所有者が不明であるため公共事業のための収用ができないなど)が生じているという現状を踏まえ、①所有者不明土地の利用の円滑化、②所有者の効果的な探索、を図るため特別措置法が制定されました。

 

2 特別措置法の主な内容は、以下のとおりです。

(1) 所有者不明土地とは?

 特別措置法では、所有者不明土地を、「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地」と定義しています。

(2) 所有者不明土地の利用の円滑化のための特別の措置

ア 特別措置法では、所有者不明土地のうち、現に建築物が存せず、利用されていないもの(特定所有者不明土地)について、「地域福利増進事業」(例えば、道路、学校、公民館などの整備事業)を実施する者に対し、都道府県知事が10年を限度とする土地使用権を取得させる制度を設けました。

イ また、公共事業において、特定所有者不明土地を、収用委員会ではなく都道府県知事の裁定によって収用又は使用する制度も設けられました。

ウ さらに、所有者不明土地の管理のため特に必要がある場合には、国の行政機関の長又は地方公共団体の長が家庭裁判所に対し不在者財産管理人や相続財産管理人の選任申立を行うことが可能になりました。  

(3) 所有者の効果的な探索のための特別の措置

 特別措置法により、地域福利増進事業や公共事業の実施の準備のため土地所有者等を知る必要がある場合に、関連情報を当初の利用目的以外の目的に内部利用したり、事業者に提供することができるようになりました。

 

 上記(2)ウ及び(3)は昨年11月に施行され、(2)ア及びイは本年6月に施行されます。