自力救済の禁止【2023年10月号】弁護士亀村恭平
1 はじめに
弁護士が法律家以外の方と話をする際に驚かれるテーマとして「自力救済の禁止」があります。これは、権利侵害を受けていたとしても、裁判所を通さずに自力で侵害を排除することはできないというルールです。
2 どのようなケースで問題となるか
たとえば、友人に自転車を貸したが返還を求めても返さないという場合、目の前に自転車と鍵があっても友人に無断で取り戻すことはできません。また、貸したのではなく盗まれた自転車が後日発見されたという場合であっても同様に取り戻すことはできず、警察に通報する必要があります。
また、アパートの部屋を賃貸しており、借主が家賃を滞納して夜逃げしたという場合も、無断で鍵を交換することや、借主の荷物を処分することはできません。他人の車が不法に駐車されている場合も同様であり、処分することも、無断で移動することもできないのが原則です。
3 例外はあるの?
自力救済の禁止を原則通り考えるとこれまでご紹介した通りの対応になりますが、例外的な取り扱いがなされたと思われる例もあります。
横浜地方裁判所の庁舎出入口に無断駐車された自動車について、庁舎管理権に基づき裁判所が駐車スペースまでレッカー移動したことがニュースになりました。裁判所の行為であれば常に適法というわけではありませんので、本件の行為も事後的に違法と判断される可能性もありますが、一つの例外事例といえます。なお、横浜地裁は庁舎管理権を根拠としていますので、仮に本件のレッカー移動が適法と判断されても、私有地における無断駐車の事例において自力救済が認められるわけではないという問題もあります。
裁判例としては、横浜地裁昭和63年2月4日判決があります。この事例は、アパートの賃借人がその廊下に無断で荷物を置いていたため、賃貸人が再三撤去を催告したうえ撤去をした行為が社会通念上許容されると判断された事案です。もっとも、処分された荷物の量が少ないことや価値が乏しいことが理由として挙げられており、荷物の量や価値によっては異なる判断がなされることが想定されますので、この裁判例を根拠に自力救済全般が適法になるものではなりません。
4 最後に
自力救済の禁止は、力のある者のみが権利を実現することを防止するために必要なルールです。他方で、杓子定規に適用することで、無断駐車の事例を含め、権利侵害に対して速やかに救済できないという弊害もあります。
現在適用されている法律において、一般市民の感覚と乖離していると思われるものは自力救済の禁止に限られません。弁護士としては法律を前提にするしかありませんが、たとえば駐輪禁止区域に駐輪した自転車を即時撤去する方法が制度化されたのと同様、無断駐車についても行政が回収し、引き取りの際には手数料を支払うといった制度を作るなど法制度を変えることは可能です。疑問点について十分議論をしていただき、多くの方が納得できる法制度になればと思います。