外壁補修工事にあたってお隣の土地を使わせてもらいたい ~隣地使用請求権~【2021年10月】弁護士杉浦宇子                  

1 はじめに

 「相隣関係」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。民法には、「相隣関係」という表題でくくられている条文群があります。

 「相隣関係」とは隣り合った不動産を所有又は利用する者の間で相互の不動産利用を円滑にするためその利用を調整し合う関係のことを言います。調整が必要となるものの例としては、通行や水流や排水や境界等があげられます。

 隣地の竹の竹の子が自分の敷地から生えてきたら自分で掘っても良いけど、隣地の樹木の枝が境界を越えて自分の敷地にはみ出してきても自分で勝手にはみ出した枝を切ってはだめで、隣地の人に切除するよう請求することができるだけ、という話は知っている人も多いと思います。これはまさに民法233条に定められていることで、このように隣地同士の関係を調整するルールが民法に予め定められています。

 では、表題にした事案のような相隣関係についてはどうでしょう。

 家が築年を重ねて外壁補修工事が必要となってきたが、工事に必要な足場を組むスペースが敷地では足らず、隣地を使わせてもらう必要がでたとき、隣地を使わせてもらうことはできるのでしょうか。

 

2 任意の申入れ

 民法209条1項本文では、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するために必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。」と規定されています。

 隣地同士でお互い様だから必要最小限であれば勝手に使っていいというわけにはいけません。まずは使わせ欲しいと請求することができますよ、というわけです。

 隣地使用請求に対して隣地の人が任意に承諾してくれれば、承諾の範囲で隣地使用をすることになります。

 

3 隣地使用請求訴訟

 使用請求しても隣地の人が承諾しなかったときには、裁判所に承諾に代わる判決を求める訴えを起こす必要があります。そこで承諾に代わる判決をもらって、その判決の範囲内で隣地使用ができるようになるのです。

 但し、隣の住家への立ち入りについては、裁判で承諾に代わる判決を求めることはできません(民法209条1項但書)。

 

4 損害の償金請求

 適法に隣地を使用したときでも、もしそれによって隣地の人が損害を受けたときには、隣地の人はその償金を請求することができます(民法209条2項)。

 

5 法律の規定の必要性

 お隣同士はお互い様なので、できればよい関係でいたいものですが、ちょっとしたきっかけで感情的にもつれてしまい、それが時には代々受け継がれてしまうこともあります。そうなると、普通なら話し合って穏便に解決できそうなことでも解決が難しくなってしまうこともあります。感情的になりがちな相隣関係について民法が調整のルールを定めてくれていることはありがたいことだと思うこともあったりします。