スポーツにおける刑事責任(亀村恭平弁護士)
スポーツにおける刑事責任 【2018年6月号】
1 はじめに
最近、日大アメフト部の選手が試合中にした悪質なタックルが話題になっています。また、被害者は監督とコーチを告訴したとの報道もなされています。そこで、今回はスポーツにおける刑事責任についてご紹介したいと思います。
2 基本的な考え方
アメフトのタックルのように、スポーツ中のプレーで相手に怪我をさせた場合、形式的には怪我をさせようとしてプレーをしたのであれば傷害罪(刑法204条)、怪我をさせるつもりはなかったのに結果的に怪我をさせてしまった場合には過失傷害罪(刑法209条)に該当します。
しかし、実際にはスポーツ中に相手に怪我をさせたことについて刑事事件として立件されることは多くありません。その理由として、「法令又は正当な業務による行為は罰しない」(刑法35条)という規定が挙げられます。
スポーツの中には、ボクシングのように相手が怪我をすることが当然のものもあります。しかし、サッカーやアメフトなどの球技においても、選手は試合中に怪我が生じる危険性があることを認識して競技に臨んでいます。これを「危険の引き受け」といい、スポーツ自体に危険性があることを被害者が認識していた=被害者が同意していたことを理由に、行為が正当化されるという考え方です。
3 例外はあるのか?
スポーツ中の怪我と刑事責任についての基本的な考え方は上記の通りですが、スポーツ中の怪我であれば常に刑事責任を問われないわけではなく、実際に有罪判決が出た裁判例も存在します。
たとえば、夜10時頃路上で空手の練習をしていた際、興奮して一方的に殴打したため相手が死亡したという事案では、傷害致死罪として懲役2年の判決が言い渡されています。この事件は、空手の練習中といっても、部活動等ではなく、独学で学んだ空手という特徴もあります。 この判決では、上記の特徴も踏まえ、行為が正当化されるためには単に空手の練習中というだけでは足りないとしたうえで、本件は練習場所として不相当な場所で、正規のルールに従っていないことなどを理由に違法性を認めています。
4 最後に
スポーツ中に相手に怪我をさせた場合であっても、原則的に刑事責任は否定されます。しかし、スポーツ中の怪我という言い分で何でも正当化されるわけではなく、今回ご紹介したように刑事責任を認めた裁判例も存在します。
話題となっている日大アメフト部の事件についても、上記裁判例と異なり一応正規の試合中であったことを考慮すれば刑事責任無しという結論もあり得ます。しかし、「怪我をさせてこいという指示があった」ことが事実と認定されれば、試合中であろうと正規のルールに従っていない形での悪質なタックルとして違法性が認められるべきだと思います。
スポーツをする際に加害者にならないように注意していただくことはもちろんですが、世間で話題になっているニュースの中には法律に関係するものが多数ありますので、少しでも法律に興味を持っていただけると幸いです。