「親権」についての法律、どう変わる?~離婚後共同親権制度~【2024年7月号】弁護士杉浦宇子
1 はじめに
「親権」に関する民法の規定の改正案を含む法案が、今年5月の国会で可決成立しました。
この法案の中で大きな争点となっていたのは、「離婚後共同親権制度の導入」如何でした。法案に反対する側からは、『DVや虐待がある場合、被害者支援や被害防止の制度が無いまま離婚後共同親権制度が導入されたら、離婚後も共同親権の名の下に加害者の被害者への不当な支配が及ぶ危険が多きいのではないか』との懸念も強かったのですが、問題は払拭されないまま成立しました。
改正民法の施行は、成立から2年以内ですので、令和8年5月までに施行される予定です。
2 現行の離婚後親権
現行法では、未成年の子のある夫婦が離婚する場合、どちらか一方を親権者と定めなければならない、いわゆる単独親権制度となっています。
単独親権制度の下でも、離婚後の元夫婦は、子どもたちの親として、各自に子どもを健全に養育する責任があることは当然です。現行法もそのことを否定していませんから、子どものために離婚後も協力できることは協力することは何ら妨げられません。
実際に、離婚後も子どものことについて相談し合っている元夫婦は珍しくはないと思います。
他方、そのような関係を新たに構築するのが困難な元夫婦も多くいます。その原因として上げられる代表的なものが、DVや虐待です。
3 「離婚後共同親権制度」
1)単独か共同かの選択
改正民法では、離婚時に「父母の双方又は一方を親権者と定める」として、共同親権か単独親権かを選択して定める制度となっています(改正民法819条1項)。
またその選択は、協議離婚の場合は父母が協議で、裁判離婚の場合は裁判所が判決で行うことになります。
2)婚姻時と同じ行使方法
改正民法は、婚姻時と離婚後の条文を分けずに「親権は父母が共同して行う」と、同一条文で原則的な行使方法を定め(同824条の2 1項本文)、①子の利益のため急迫の事情があるとき(同824条の2 1項3号)②監護及び教育に関する日常の行為(同824条2 2項)の場合には単独親権行使が可能とされています(法務省のリーフレットでは、①の例として「DV・虐待からの避難、緊急の場合の医療等」、②の例として「子の身の回りの世話等」と記載されています)。この例外規定をどう解釈するかで、これまで実務で積み上げて来たDV・虐待の被害者保護の流れが逆行する危険も否定できないため、今後の実務でDV・虐待の被害を軽視する運用がなされないよう注視していくことが必要です。家庭裁判所を筆頭に、離婚手続に関わる専門家が、子どもの権利やDV・虐待被害に関する十分な理解をもって取り組む必要性は益々大きくなります(「虎に翼」に出て来た家庭裁判所の5つの性格が、俄然重要となります)。