離婚に伴う財産分与の対象~特有財産について~【2023年8月号】弁護士杉浦宇子

 

1 はじめに

 「離婚に伴う財産分与」は、婚姻中に夫婦が協働してつくった財産を、婚姻関係を解消するにあたって、夫婦で分けて清算するものです。

 このとき、財産分与の対象となる財産のことを「実質的夫婦共有財産」と言ったりします。婚姻中につくった財産は、形式的に夫婦どちらか一方の名義になっていても、他方の有形無形の協力によってつくられているから、名義の如何を問わず、実質的にみれば夫婦の共有財産といえるのです。

 婚姻関係が解消され、以後夫婦が協力して財産をつくる関係でなくなるに際しては、公平の観点から、それまで形成した財産は、実質により清算される必要があり、それが財産分与なのです。

 

2 特有財産

 このように、「財産分与」は、夫婦が婚姻中に協働してつくった「実質的夫婦共有財産」を清算するものですから、婚姻中に取得された財産であっても、夫婦が協働してつくっていない財産は「実質的夫婦共有財産」ではなく、財産分与の対象になりません。このような財産を「特有財産」と言います。

 特有財産の典型例としては、

1)婚姻前につくった財産

2)相続で取得した財産

3)親など第三者から贈与された財産

などがあります。

 財産分与基準時にその特有財産が残っていれば、特有財産を有している方は、それを夫婦共有財産の対象から外すことを主張できますが、当該財産が特有財産か否か争いになることがあります。その場合、特有財産を主張する側が、当該財産が特有財産であることを立証する必要があります。立証できなければ特有財産とは認められません。

 

 特有財産が共有財産から明確に区別され保有されていた場合は、特有財産の立証は比較的容易です。

 例えば、婚姻前の蓄えを定期預金にしていて、婚姻後も財産分与基準時まで解約せずに持っていたとき、当該定期預金の預入日を明らかにすれば、特有財産の証明ができるので、当該財産を財産分与の対象としないで、離婚後も自分の財産として維持できます。

 これとは逆に、例えば、婚姻前に100万円の残高のある普通預金口座があっても、同じ口座に婚姻後の給与(これは実質的夫婦共有財産です)が入り続けて、混ざり合ってしまったとき、当然その口座からは出金もあり、出金されて消費されたのが、婚姻前の金額か婚姻後の金額か不明となってしまうと、婚姻時に存在した特有財産が財産分与基準にも存在していることを特定するのは困難になります。婚姻中に口座残高が100万円より小さくなった場合には、尚更、特有財産がそのまま残っていると言い難くなります。

 完全に特有財産が共有財産と区別できなくなってしまった場合でも、婚姻時の特有財産の額を共有財産形成への寄与で考慮できる場合もあります。

 

 いずれにしても個別具体的に検討し、公平の観点から適正な結論となるよう対応を考えることになるでしょう。