離婚に伴う財産給付 ~財産分与~【2023年1月号】弁護士杉浦宇子
1 はじめに
夫婦が離婚する場合に解決が必要な「離婚に伴う財産給付」の問題として、よく①財産分与②慰謝料③養育費の3つがあげられます。(とはいえ、これら3点も離婚の際に必ず問題となるわけではありませんが。)
この中から、今回は財産分与について概説しようと思います。
2 基本的考え方
財産分与は、婚姻中に夫婦が協働して形成した家計の財産について、夫婦関係を解消するにあたって清算するものだというのが基本的な考えです。ですから、
1)婚姻中に夫婦が協働して形成した財産が残っていないなど分与すべき財産がない場合には財産分与はありません。
2)婚姻中に取得した財産は、夫婦の一方の名義になっていても、実質的には夫婦共有財産と考えられ、財産分与の対象となります。
3)また、実質的夫婦共有財産の分与割合は原則として2分の1となります。
4)婚姻中に取得された財産でも、夫婦が協働して形成したものではない財産(婚姻前の貯蓄や遺産等)は特有財産と呼ばれ、原則として財産分与の対象となりません。
5)清算の基準時は、夫婦が協働して財産を形成する生活が終了した時点=別居時が原則となります。
たとえば、基準時の夫婦の財産が、夫名義の預金300万円と、妻名義の預金100万円である場合(いずれも婚姻中に取得)、財産分与の対象となる実質的夫婦共有財産の総額は400万円(300万円+100万円)ですから、その2分の1である200万円を夫と妻が各自取得することになるので、300万円の預金を持っている夫から妻へ100万円を分与することになります。
なお、夫婦が協議のうえ合意すれば、別の分け方も可能です。
3 清算的財産分与が中心的な考えですが、具体的事情によっては、慰謝料的要素や扶養的要素も考慮されることがあります。
4 夫婦共有財産の種類には、預貯金だけでなく、不動産、保険、株式等の有価証券、自動車等色々なものがあります。その中でよく問題となるのはオーバーローンの自宅不動産の取扱です。住宅ローン負債は財産分与の対象となりますので、不動産の時価評価よりも住宅ローンの残高の方が多いときの取扱をどうするかは当事者の強い関心事となります。この点に関しては、大きく2通りの考え方があります。㋐不動産の価値を超える負債の全額を他の積極財産から控除する取扱(通算説)と㋑オーバーローンの不動産はそれ単体で見るとマイナス財産で財産価値はゼロであるとして、財産分与の対象から外す取扱(非通算説)です。
裁判所の判断は、㋐と㋑どちらの取扱をしたものもあり、どちらか一方とは一概に決まっていません。結局は、ケースごとの諸事情を具体的に検討して公平の観点から決められることになります。