社員のリストラ

「社員のリストラ」を考える前に【2009年5月号】

                                                   弁護士  安  田    剛

 昨今の急激な景気の冷え込みから、企業の業績が悪化し、企業が従業員の雇用調整を考えなければならない場面が増えているように感じます。製造業の「派遣切り」、新卒者の「内定取り消し」などのニュースは大きく報道されています。

 企業が人員削減を考える場合、最終的な手段となるのが正社員のリストラ(解雇)であろうと思います。しかし、会社の業績が悪化しているからと言って、直ちに正社員の解雇ができるわけではありません。従業員側に特に責められるべき点がないのに、会社側の経営上の必要性から従業員を解雇することを「整理解雇」と呼びますが、この「整理解雇」は、次の①~④の4つの要件を満たさなければならないと考えられており、非常に厳しい制限が課せられているのが現状です。

①人員削減の必要性
 まず当然のことながら、会社の業績が悪化し、人員削減の必要に迫られていることが必要です。

②解雇回避努力義務の履行
 この点が最も重要であると考えられますが、会社側が正社員の解雇に踏み切る前に、それを回避する努力をしたかどうかが厳しく問われます。雇用調整の手段として正社員の解雇は「最後の手段」であり、例えば、新規採用の停止、役員報酬の削減、昇給・賞与の削減、希望退職者の募集、配転・出向など、解雇以外の措置を講じることが必要です。特に、希望退職者の募集は重要であり、これをせずに行った整理解雇は無効となる可能性が極めて高いでしょう。

③被解雇者選定の合理性
 解雇する対象者の選定にあたっては、客観的で合理的な基準(勤務成績、勤務年数、年齢など)を設定し、この基準に基づいて行うことが必要で、恣意的に選んだような場合は、解雇が無効となる場合があります。

④手続の妥当性
 労働組合があれば組合と協議することが必要であり、組合がない場合でも労働者との間で、解雇に至った経緯や会社の方針などを十分に説明し理解を得る努力をすることが必要です。

 以上のような①~④の要件を欠く「整理解雇」は無効とされることがあり、その場合企業は大きな代償を負うこともあるため、十分な注意が必要です。