従業員の不祥事

従業員の不祥事に対する会社の対応【2014年3月号】

弁護士  安   田         剛



 今回は、従業員の不祥事に対する会社の対応についてQ&A形式で取り上げたいと思います。

 Q.不祥事を起こした従業員を解雇できるでしょうか。

 A.従業員の解雇については、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(労働契約法16条)とされています。
 いわゆる解雇権濫用法理と呼ばれる解雇規制です。
 従業員に対する解雇が「無効」となるというのは、会社から解雇という処分を言い渡してあっても、なかったものとして扱われ、引き続き従業員としての地位が認められ、賃金を支払わなければならない、という意味です。
 従業員に対する解雇が無効となるか有効かは、従業員の起こした不祥事の内容、会社の業務や秩序に与える影響、当該従業員の従前からの勤務内容などを総合的に考慮して決定されますが、その判断は難しい場合が多く、解雇が無効となるリスクが多分に存在します。
 このように従業員に対する解雇は、一般的に無効となるリスクがありますのでこれを回避するため、不祥事を起こした従業員に対し退職届を提出させて、解雇ではなく、退職という形で決着させることも一つの方法です。

 Q.会社の売上金を横領した従業員について、懲戒解雇を考えましたが、従業員に反省の態度がみられるため諭旨退職処分に留め、退職金を支払う予定です。ただ、退職金から会社の売上金を横領した分は差し引いて支払いたいと思いますが、可能でしょうか。

 A.退職金は、退職金規定等で退職金を支払うことや支給基準等が定められている場合、賃金にあたると考えられます。
 賃金については、いわゆる「賃金の全額払いの原則」が定められており(労働基準法24条1項)、法令の定めがある場合か、賃金控除に関する労使協定が締結されている場合を除いて(同項但書)、原則として賃金を控除して支払うことは認められていません。
 この原則は、労働者の不法行為を理由とする損害賠償債権を自働債権として会社が相殺を行った場合も妥当するとされていますので、会社の一方的意思表示により、退職金を横領金の弁償に充当することは困難です。
 ただ、退職金を弁償に充当することにつき、従業員の合意が得られた場合は、労働者の同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときには、「賃金の全額払いの原則」に違反しないものと考えられています。
ただし、合意による相殺の有効性の判断は厳格に行うものとされていますので、万一退職後に従業員が同意の有効性を争ってきた場合には無効とされるリスクが存在します。
 このようなリスクを回避するため、退職金を全額現金で交付して退職金を受領した旨の領収書を従業員から受け取り、その場で従業員から弁償すべき額を返還してもらって、領収書を交付することができれば、一旦は退職金を全額支払ったこととなりますので、このような対応ができれば会社側としてはベストな対応です。