民法改正~特別養子縁組~(令和2年4月1日施行)【2020年6月号】弁護士杉浦宇子

 

1 はじめに
 「養子縁組」とは、自然の親子関係のない者の間に、法的に親子関係を創設する行為(制度)のことをいい、民法で規律されています。
 「家」制度が重視されていた日本では古来より「家」の承継のために利用されていた他、口減らしや労働力の補充等専ら「親のため」「家のため」に用いられる等、子の意思は無視されていました。さらには、実子でない乳幼児を引き取って、養子縁組をせずに夫婦の実子として出生届出をするという慣行も古くから行われていました(藁の上の養子)。この根底には、「子は親が自由に支配できる」という考えがありました。
 しかし、戦後、「親のため」の制度から脱皮し、「子自身の福祉のため」に存在するという基本理念のもとに養子制度が改革されました(例:民法798条の家庭裁判所の手続関与等)。

 

2 特別養子縁組とは
 現行民法上、養子縁組は「普通養子縁組」と「特別養子縁組」があります。前者は、養子縁組で法律上の親子関係が成立した後も、実親子関係が戸籍上・法律上も残ります。これに対し、後者では、養子縁組により養親と養子の間に実親子と同じ親子関係を結び、養子と実親との法的な親子関係を終了させることになります。
 特別養子縁組は、様々な理由で実親と暮らすことができない子どもに新たな養親子関係を築き、家庭的養育環境の中で健全育成を図ることを目的とする「子の利益のため」という明確な目的をもった制度です。
 欧米では、戦後、戦災で孤児となった「親の無い子に親を」という子の福祉のための養子が広がり制度化されていましたが、日本では戸籍制度の整合性維持の観点からの批判等が強く特別養子縁組のような制度の導入は遅れ、昭和62年の民法改正でようやく新設されました。
 ここ愛知県の児童相談所では、特別養子縁組創設前から、「愛知方式赤ちゃん縁組」として、出生後乳児院を経ずに新生児を里親委託する方式が開始され子の福祉を守る努力がなされていたのは有名です。日本でも児童福祉の現場では、親の養育が受けられない子どもに家庭的養育環境をできる限り用意する必要性が認識されていて、特別養子縁組はそれにこたえる制度として期待されました。

 

3 特別養子縁組についての改正
 現在、乳児院や児童養護施設等には虐待等が原因で多数の子が入所しており、その中には、特別養子縁組により家庭で養育することが適切な子も少なくないといわれていますが、児童福祉の現場では、制度上利用しにくい点があると指摘され、利用が進んではいませんでした。
そこで、成立要件を緩和する等、より利用しやすい制度にして利用促進しようとしたのが今回の改正です。
 従来特別養子縁組の養子となる子どもの年齢の上限は原則6歳未満でしたが、改正により原則15歳未満に引き上げとともに、養親となる者の手続きの負担を軽減されました。
(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00248.html)

 耳目に触れることの少ない制度の改正ですが、多くの子どもが安定した養育環境で成長できるようにするための制度に対する社会の理解が進むことも大いに期待したいと思います。