懲戒解雇の限界について【2004年11月号】

 

弁護士 安 田   剛

  取引先に対する2000万円以上の売掛金の回収を怠って、800万円以上が回収不能となり、会社に損害を与えた従業員Aを「懲戒解雇」することができるでしょうか?

 このような事例について、裁判所は「懲戒解雇は無効」という判断をしました。その理由について、詳細な点は割愛しますが、従業員Aの業務上の落ち度は確かに存在するけれども、売掛金が回収不能となったことはAだけに責任があるわけではなく、Aに対する指導監督を怠った上司や会社の側にも責任があるから、ということのようです。
 「懲戒解雇」は、会社の就業規則にその旨の規定がないと行うことができませんが、それだけでは不十分で、懲戒解雇することがやむを得ないといえるような従業員の行為の悪質性や背信性が必要となります。
 上記の事例で言えば、売掛金の回収を怠って会社に損害を与えたのは、従業員Aの業務上のミスであることは間違いないものの、「懲戒解雇」が有効といえるほどには、悪質な行為とは認められなかったということだと思われます。
したがって、上記の事例とは異なり、従業員が会社の金銭を横領したような場合(これは刑法上の業務上横領罪にあたることがあります)には、「懲戒解雇」も有効となる場合が多いといえるでしょう。
 もっとも、「懲戒解雇」が有効となるかどうかは、極めて微妙な判断です。裁判所の判断基準が非常に抽象的で曖昧であるため、ある程度結論の予測はできるものの、懲戒解雇が有効か無効かを100%の確率で判断するというのは難しいところがあります。そのため、懲戒解雇という厳しい処分をするのではなく、もう少し穏便な方法で処理することが必要な場合もあります。