不祥事発見時の対策

不祥事発見時の対策【2006年7月号】

弁護士 榎 本   修


  パロマ製の湯沸かし器の事故、シンドラー社の問題など企業不祥事がマスコミで報道されない日はありません。このような不祥事に、企業としてどのように対処したらよいのでしょうか。
 
 ○「どんなに努力しても不祥事は必ず起こる」という気構えが大切

  「不祥事を無くすために日々努力すること」は、もちろん非常に重要です。しかし、我々の事業には、実に様々な人が関わっています。従業員、仕入れ先、取引先、お客様・・・。
  これらの人々は、みんなそれぞれ違う個性を持った人間で、完璧ということはありません。失敗は必ず一定の割合で生じるのです。むしろ「(もちろん不祥事ゼロのために努力はするのだが、それでも)不祥事は絶対なくならない」という気構えや「腹のすわり方」が大切です。不祥事発見後の対策に失敗している企業を見ると「うちには、不祥事は起こるはずがない」という前提に立っているがために、最初の行動(初動・ファーストアクション)で失敗しているというケースが多いのではないかと思います。

 ○一番大切なことは何か?

  このような不祥事が起こった場合、一番大切なことは何でしょうか。それは、非常につまらないことですが「事実と原因を正確に把握する」ことです。

(1)自己防衛本能


  「事実の正確な把握」は簡単に聞こえますが、実は非常に難しいことです。人間は(意図していなくても)自己防衛本能があります。とりわけ、失敗が人事考課や査定に連動する場合はなおさら事実がトップまで伝わりにくくなります。その点をよく考えてスピーディーに事実確認しなければなりません。

(2)伝言ゲーム

  大きな組織になるほど、社員は意図していなくても、情報が間違って伝わりやすくなります。「伝言ゲーム」をやったときに、最後の人には全く違った伝言が伝わってしまうことを思い出してみてください。
  例えば、JR西日本の尼崎列車事故の際、事故発生当初「置き石があったから事故が起こった」という説明を会社がしたことがありました。あのとき現場では「もしかしたら置き石なのではないか」という程度のことだったのかもしれません。ところが、それが上に伝わるときは、上記(1)の自己防衛本能も加わって「置き石かもしれない」→「置き石だったはずだ」→「置き石だったに違いない」→「置き石が原因だ」と間違って伝わることは十分あり得ることだと思います。

 ○短く適切なお詫び

  上記のような「不祥事はいつでも起こる」という気構えと、事実の正確な把握が非常に大切です。それができていれば、自動的に対策の方向は見えてくることが多いと思います。あとは、「短い言葉で」「適切な」お詫びをするということです。人間長く話すと言い訳が入ります。真実の謝罪の言葉は端的に短くなるはずです。
 
  最近は、「公益通報者保護法」の制定や情報通信技術の発達(匿名のインターネット掲示板など)により、昔ならば企業の中で隠すことができたかもしれない不祥事が、どんどん表に出るようになっています。「不祥事は隠せなくなった」のです。そのように考えて、不祥事についての考え方を各企業が改めることが求められていると思います。