災害法務Q&A① ―賃借物件編【2023年2月号】弁護士池田篤紀

 

 予想もしたことがない規模の地震、台風、疫病、戦争が、何度も何度も、それも突然に発生し、南海トラフ地震は30年以内に高確率で発生すると言われています。備えあれば憂いなしですが、それは知識についても同様だと思います。そのため、もし災害が起きたとき、どのように対応すべきか、様々な場面、立場から紹介していきたいと思います。

 今回は、災害により賃借物件が破損してしまった場合を例に、いくつか紹介したいと思います。

 

Q 災害により、賃借物件が破損し、以前と同じように使用することができなくなった場合、修繕をするのは賃貸人か、賃借人か。

→民法606条において、賃貸人は賃借人が契約で定められた目的に従って賃貸物件を使用収益するまえに必要な修繕を行う義務を負うとされていますので、災害などの不可抗力が原因で破損したとしても、原則として賃貸人が修繕義務を負います

 ただし、修繕費用が新築と同程度の費用がかかる場合には、修繕義務が否定されることがあります。

 なお、賃貸人の修繕義務はあくまで任意規定であり、当事者間の取り決めで、賃借人が修繕義務を負うことも有効とされています。ただし、震災などによりその修繕が通常の使用で生ずる限度を超える場合には、賃借人は修繕義務を負わないとされる場合もあります。

 

Q 災害によりビルが破損したが、修繕が行われない。賃借人はどのような請求ができるか?

 方法としては、賃貸人に対し、⑴金銭請求、⑵賃料の全部又は一部の拒絶、減額請求、⑶賃貸借契約の解約が考えられます。

 ⑴の金銭請求の具体例としては、自ら修繕した修繕費用の請求や、相当因果関係の範囲内での営業損失の賠償請求などが挙げられます。

 ⑵については、賃貸人は目的物を使用収益させる義務を負うので、使用収益できない限度において賃料の支払を拒絶、減額することができます。常に全額拒絶できるわけではないので、ご注意してください。なお、本件事案とは少し異なりますが、災害による避難命令によって退去を余儀なくされた場合には、使用収益させることが履行不能として、「賃料支払義務が免除される」と解釈されているようです。

 ⑶の契約の解除については少しの破損で契約解除できる場合できるのではなく、目的に沿った使用収益がおよそできないと評価される場合に契約解除可能と考えられています。

 上記の結論は、基本的には、災害が発生したことにより導かれるという帰結よりは、賃貸借契約そのものの性質から導かれる帰結となります。

 

 なお、災害の被害者は賃借人だけではなく、賃貸人もまた被害者といえるでしょう。そのため、災害時においての解決方法として、常に「裁判」を選択するのは現実的ではないかもしれません。賃借人としては、上記各請求が可能であったとしても、場合によっては歩み寄り話し合って早期に解決していく姿勢を持つことも大事でしょう。