債権回収に向けた手続の選択について

債権回収に向けた手続の選択について 【2015年12月号】

弁護士  今  井  千  尋



 私が取り扱う業務の中で、「取引相手が商品の売買代金を支払ってくれない。何とかして回収したい。」というような債権回収の案件は、常に一定の割合を占めています。

 それでは、私がその全ての案件で民事訴訟を提起しているかといえば、そうではありません。債権回収の案件で私がまず考えることは、どのようにして「債務名義」(これがあれば、例えば相手方の銀行預金を差し押さえるなどの強制執行ができます。)を取得するかという点なのですが、「債務名義」は民事訴訟で得られる判決に限られません。

 今回は、判決以外の「債務名義」を得る方法のうち、支払督促、民事調停及び即決和解についてご紹介します。

 支払督促について

 支払督促とは、債権者の申立を受け、(裁判官ではなく)簡易裁判所の裁判所書記官が金銭等の支払いを命じる支払督促を発する手続です。債務者が支払督促を受領してから2週間以内に異議の申立がなければ債権者の申立により支払督促に仮執行宣言が付されます。この仮執行宣言付支払督促が「債務名義」となり、強制執行を行うことができます。

 支払督促には債務者が言い分を述べる機会がありませんので、迅速に「債務名義」を得ることができます。ただし、債務者から異議が出れば民事訴訟手続に移行しますので、債務者からの反論が予想される場合は、「急がば回れ。」で当初から民事訴訟を提起することになります。

 民事調停について

 「売買代金は回収したいけど、先方とは今後も取引を継続していかないといけないので、穏便な形で進めたい。」という場合は、民事調停がお勧めです。 民事調停とは、簡易裁判所で調停委員を交えて話し合いを行い、合意によって紛争の解決を図る手続です。当事者間で合意が調うと調停調書という書面が作成され、この調停調書が「債務名義」となり、債務者が合意どおりに支払いを行わない場合強制執行を行うことができます。

 民事調停は当事者間の合意によって成立しますので、民事訴訟や支払督促に比べソフトな手続ということができ、債務者と決定的に対立することなく紛争の解決を図ることができるというメリットがあります。他方、合意の成立が全く期待できない場合には適さず、民事訴訟等の他の手続を採ることになります。

 即決和解について

 「取引相手との紛争を穏便な形で解決したいし、既に解決案についても概ね合意しているが、取引相手が解決案どおりに支払ってくれるかが心配だ。」という場合は、即決和解(訴え提起前の和解ともいいます。)がお勧めです。

 即決和解とは、民事上の紛争がある当事者が民事訴訟を提起する前に簡易裁判所に和解の申立をする手続です。当事者双方が定められた期日に出頭し、合意が調えば和解調書という書面が作成され、この和解調書が「債務名義」となり、債務者が合意どおりに支払いを行わない場合、強制執行を行うことができます。 当事者双方が解決案に合意している場合、公正証書を作成することもありますが、即決和解には、①費用が安く、②対象となる紛争の範囲が広いというメリットがあります。

 債権回収に向けた手続を選択するにあたっては管轄裁判所など上記内容以外にも考慮すべき要素がありますので、お気軽にご相談いただければと思います。  債権回収に向けた手続の選択について
弁護士今井千尋