効果的な債権回収とは?【2022年10月号】弁護士榎本修

 

 山口県阿武町がコロナ特別給付金4630万0000円(!)を誤振込した事件は、ネットニュースなどによれば、①町が依頼した弁護士が4630万円を決済代行業者などから全額回収したうえ、②その弁護士費用等も374万0000円を支払う旨の裁判上の和解が成立したとのことです。

①知恵と②スピードと③正義

 この種の「債権回収」は、弁護士業務でよく遭遇する案件で、このニュースレターでも何回か取り上げています。

(債権回収に関するニュースレター)

債権回収に向けた手続の選択について | ひかり弁護士法人アイリス法律事務所 (iris-law.com)

勝訴判決後の手続 | ひかり弁護士法人アイリス法律事務所 (iris-law.com)

 私はこれまで、この種の債権回収事件を比較的多く取り扱ってきました。相手方との①知恵比べ、②スピード比べ、③「支払うべきものをきちんと支払ってもらう」という正義にかなうという点でやりがいも多く感じる事件でもあります。

効果的回収のポイント

 弁護士が交渉に入っただけで回収できた場合もありますが、仮差押(保全)・訴訟・差押(強制執行)などの強制手続と効果的に組み合わせることが重要です。その場合でも、相手方債務者の様々な情報を広く集め、それを的確に整理して回収のヒントに結び付ける点が効果的回収のポイントです。

 例えば、現在の民事執行の実務では、たとえこちらが相手に対する勝訴判決を持っていても、相手の預金を差し押さえることは簡単ではありません。こちらで①銀行名と②支店名を特定しないと裁判所は債権差押命令を出してくれないことになっているのです(債権執行に関する申立ての書式一覧表 | 裁判所 (courts.go.jp))。そんな時に大切なのは、①地道に情報を集め、②現地に足を運び、③粘り強く(時にはしつこく)手続きを進めることにあります。実際には、相手方債務者の会社に何度も訪問して交渉していた結果、相手方会社の事務所に吊るされているカレンダーから「相手方は〇〇信金に取引がある」と分かり、債権差押に成功し満額回収した例もあります。

 動産執行(家財差押えなど)についても、必ずしも費用対効果はよくないときがありますが、私はかなり徹底して行うタイプです。裁判所執行官と一緒に現地に差押えに行くというのは、国家権力による合法的な強制力に基づく強奪(一種の強盗のようなもの)で、強烈です。相手の動産に赤札を貼り、相手がこれをはがすと封印破棄罪(刑法96条)で刑罰に罰せられます。封印した動産をそのまま持ち出しても同じ刑罰に処せられます(私は、実際に持ち出した相手方が逮捕されたケースを見たことがあります)。

 最近は財産開示命令の不出頭に刑罰が科されるという民事執行法の改正もあり(2020年4月施行)、警察に被害届を出して回収を図っている例もあります。また、債権者から相手に対して破産を申し立てる例や、関係会社に対する貸付金を差し押さえる例など様々な方法があり、知恵のしぼりどころです。

 山口県阿武町の例では、町税の滞納があったことに気づき国税徴収法を活用した点が多額の回収につながったようですが、どの方法をとると多く回収できるのかは、正にケースバイケースです。その意味では、顧問先の皆さんと作戦を練りながら、何が一番効果的なのかを一緒に考え、法的手段を行使して回収してゆくということになります。そこで、私が現在担当している債権回収は全て顧問契約を締結していただいている依頼者の方のケースに限られています。