成年後見制度について【2025年5月号】弁護士安田剛
「成年後見制度」という言葉は聞かれたことがあるでしょうか?
例えば、親が認知症になって、施設に入ることになり、施設費用を支払うために、親名義の定期預金を解約したいが、金融機関に行ったところ、後見人でないと手続できないと言われたような場合、成年後見制度の利用が考えられます。
成年後見制度とは、簡潔に言うと、認知症等によって、物事を判断する能力が不十分な状態となった方(本人)について、本人の判断能力を支援したり、財産の管理を行ったりする制度のことを言います。
成年後見には、大きく分けると、2つの種類があり、一つは「任意後見」、もう一つは「法定後見」があります。「任意後見」は、判断能力が低下する前の元気なうちに、将来認知症等になったときに備えて、予め自分の財産の管理を任せる人(任意後見人)を選んでおく制度です。これに対し、「法定後見」は、既に認知症等になって自分で財産を管理することができなくなった場合に、冒頭の事例のように、それでは困るという場合に、親族等の申立てが家庭裁判所に申し立てることにより、後見人を選んでもらうという制度です。
できれば、事前の備えとして、将来判断能力が低下した場合のことを考えて、任意後見制度を利用して、後見人を選んでおいた方が良いと思いますが、任意後見制度を利用するには、公証役場で公正証書での任意後見契約の作成が必要であることもあるのか、制度自体があまり知られていないためか理由は定かではありませんが、それ程広く利用されていないのが実情です。
「法定後見」は、既に判断能力が低下してしまった後に、その方の財産管理などを行う後見人を家庭裁判所で選んでもらう制度となります。前述のように、任意後見は自分で任意後見人を選ぶことができるのですが、法定後見の場合は、家庭裁判所が後見人を選ぶことになり、自由に決めることは原則としてできません。
親族が後見人に選ばれる場合もありますが、統計的には、親族以外が後見人に選ばれる場合の方が件数的には多く、その場合、多くは弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が選ばれることが多いです。
成年後見は、一旦開始されると基本的にはご本人が亡くなるまでの間、継続することになります。後見人は、家庭裁判所の監督下にあり、就任時、その後は毎年少なくとも1回、家庭裁判所に財産の管理状況や事務の遂行状況を報告する必要があります。後見人は、ご本人の権利の擁護のために、その権限が付与されていますので、ご本人の利益に沿うように財産を管理しなければならず、後見人自身や周りの親族等の利益のために財産を費消したりすることが許されないのは言うまでもありません。裁判所も後見人からの報告によりその点をチェックしており、不自然な点があれば指摘を受けることとなります。