家庭裁判所まで行かなくても和解や調停の成立が可能になります【2025年1月号】弁護士杉浦宇子
1 はじめに
令和4年5月25日に公布された民事訴訟等の一部を改正する法律(以下改正法)は、手続の一層の迅速化・効率化を図り、民事裁判をより利用しやすくするとの観点から、民事訴訟制度のIT化より進めるものです。
2 一部先行施行
この改正法は、一部ずつ先行して施行されていて、①住所・氏名等の秘匿制度(令和5年2月20日)②電話による期日への参加の要件緩和(令和5年3月1日)③ウェブ会議による口頭弁論期日への参加(令和6年3月1日)が既に実施されています。
改正法以前も、「遠隔地に居住しているとき」等一定の要件を満たせば、ウェブ会議や電話会議による手続参加は可能になっていましたが、改正法によりその要件が緩和されて、必ずしも遠隔地でなくてもウェブ会議等により手続に参加でき、和解もできるようになり、依頼者にとっても大変便利になったと実感しています。
3 間もなく離婚・離縁でもウェブ会議で和解・調停成立できるようになります
そして令和7年3月1日からは、更なる一部先行施行により、ウェブ会議による離婚・離縁の和解・調停成立等が可能になります。
離婚裁判等の人事訴訟や、離婚調停等の家事調停においても、ウェブ会議や電話会議による準備手続や調停手続への参加はできるようになっていましたが、和解や調停、合意に相当する審判の前提となる合意は、現実に当事者が裁判所に出頭しなければ成立できませんでした。
離婚や離縁といった身分関係に変更が生じるものに関しては、「本人の真意」に基づいて合意されることが必須であることから、実際に当事者を面前にして裁判官がその真意を確認するという確実な手続によることが重視されてきました。
例えば、東京にいる夫のもとから、幼い子どもを連れて名古屋に来て別居している妻が夫に離婚調停を申し立てる場合、管轄裁判所は東京の家庭裁判所になります。調停期日毎に東京まで往復交通費をかけて裁判所まで行くことは、1日仕事を休まなければならなかったり、子どもの保育の手配をしなければならなかったりと負担が大きくなりますが、ウェブ会議や電話会議で調停期日に参加できれば、時間的にも費用的にも負担は大きく軽減されます。それでも最後の成立の期日だけは、東京の家庭裁判所まで行かなければなりませんでした。それが、今回の改正法一部施行により、合意の手続までウェブ会議でできるようになるので、先の例でも妻は一度も東京に行かずに離婚調停を成立させることが可能となるのです。
なお、成立にあたって本人の真意を確認する観点から、電話会議での成立は認められていません。