ウィズコロナでの人事労務対応 【2022年4月】弁護士坂典子
1 はじめに
新年度が始まり、新入社員を迎えたり異動があったりと職場環境にも変化があった企業様も多いことと存じます。そこで、今回は、今更な部分もございますが、ウィズコロナでの人事労務対応を確認していきます。
2 安全配慮義務
企業は、社員に対し、安全配慮義務(労働契約法5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」)を負っています。
しかし、ご承知の通り、企業は、社員が職場でコロナに罹患してしまったら、それにより直ちに責任を問われるわけではありません。企業は、使用者として、社員の職種、職務内容及び勤務場所等の具体的な事情をふまえ「想定しうる感染拡大の可能性」と「それを回避するためにいかなる方策をとることができるか」という観点から、いかに「必要な配慮」を行っていたかを説明できることが重要になります。
3 マスクの着用義務付け
他の社員等がいる職場でのマスク着用は、原則として業務命令により有効に義務付けることが可能です。ただし、マスク着用は、一定の障がいや病気等を理由に困難な方もいらっしゃいます。そのため、特に、着用を義務付けた業務命令に従わない社員に対して懲戒処分などの不利益取り扱いを検討する場合には、社員が受ける不利益の程度が大きいと言えますので、懲戒処分などによる強制を図るのではなく、感染拡大防止の目的達成のための別途の方策を検討すべきです。
4 罹患した者の療養終了後の職場復帰
⑴ 復帰時に医療機関の「陰性証明書や治癒証明書」の提出を義務付けられるか
就業規則等で特別の定めがない限り、原則として業務命令により復帰時の「陰性証明書や治癒証明書」を義務付けることは難しいです。なお、厚生労働省の新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)(令和4年3月31日時点版)でも、「新型コロナウイルス感染症患者については、医療保健関係者による健康状態の確認を経て、入院・宿泊療養・自宅療養を終えるものであるため、療養終了後に勤務等を再開するに当たって、職場等に、陰性証明を提出する必要はありません。」との記載があり、証明書を検討する場合は慎重になる必要があります。
⑵ 復帰時にPCR検査・抗原検査を義務付けられるか
就業規則等における「法定外健診」の定め等を根拠として、原則として業務命令により復帰時の検査を義務付けることが可能です。ただし、検査の必要性及び検査方法の相当性・妥当性がある場合に、一定の合理的な条件に沿って画一的に実施される必要がありますし、検査を受けることによる社員の不利益を慎重に検討する必要があります。
5 最後に
日本における累計患者数が、4月14日現在720万人を超え、感染を完全に防ぐことができない中で、企業として社員間での感染拡大を防止・回避するためにどのような方策を講じていくのか、今一度ご検討いただく機会になれば幸いです。