特殊詐欺対策の新たな動き【2022年1月】弁護士亀村恭平

 

1 はじめに

 オレオレ詐欺などの特殊詐欺についてこれまでにもご紹介したことがありますが、内容としては詐欺被害にあわないための方法にとどまっていました。

 今回は、特殊詐欺被害の防止ではなく、特殊詐欺の被害にあってしまった場合に、被害回復に成功した事例をご紹介します。

 

2 特殊詐欺グループの構造

 特殊詐欺グループは、一般的にリーダー役、電話をかける「かけ子」、被害者から直接現金を受け取る「受け子」、ATMから出金する「出し子」など、役割が分かれています。この中で、警察に逮捕される可能性が高いのは「受け子」や「出し子」ですが、アルバイト感覚で関与していたり、中学生など若年層が関与していたりと、「受け子」や「出し子」が逮捕されてもそこから被害回復がなされる例は多くないという問題があります。また、被害にあった現金については受け子や出し子の手元に残るのではなく、リーダー役やさらにその背後にいる組織に流れていると考えられているため、加害者を特定して損害賠償請求をするためにはグループの全容解明が必要という大きなハードルがあります。

 

3 被害回復成功例

 報道もされていますのでご存じの方もいるかと思いますが、暴力団組員が関与した特殊詐欺について、暴力団の代表者を訴えることによって被害回復に成功した事例があります。同様の事例は何件かありますが、令和3年6月に和解が成立した事件では、被害金額を上回る約6億5200万円が支払われることにより被害回復に成功しています。

 暴力団の代表者を訴えるという手法は全ての特殊詐欺事例に用いることができるわけではありません。しかし、暴力団員が逮捕されている事例や、逮捕には至っていないものの「受け子」や「出し子」の供述から暴力団員の関与が判明した事例であれば検討する余地があります。

 

4 被害にあった場合どうすればいい?

 特殊詐欺は紛れもない刑事事件ですので、まずは警察への被害届を出すことが最優先です。逮捕された被疑者に資力があり、刑事事件の中で被害が回復できればそれに越したことはありません。また、刑事事件とはなっていない詐欺被害について民事上の損害賠償請求をすることも可能ですが、刑事事件になることで供述調書や判決等、民事事件においても有用な証拠が作成されるという大きなメリットもあります。

 

5 最後に

 私も愛知県弁護士会の民事介入暴力対策委員会に所属していますが、全国にも多数の民暴委員がおり、多くの事例において暴力団の代表者に対する損害賠償請求については弁護団を結成して対応しています。

 また、愛知県弁護士会が運営している法律相談センターにも民事介入暴力の専門相談がありますので、被害にあった際には相談されることをお勧めします。