差押財産調査のための新たな手法 (2020年4月民事執行法の改正)【2020年7月号】弁護士榎本修

●見事に勝訴できました。とすれば、相手の財産を強制執行したい。

 裁判所で「相手方は金1000万円を支払え」との勝訴判決を獲得することができました。普通の感覚の人は、この判決が出た以上、お金を支払ってきます。しかし、中には大変不届きな人がいて、いつまで経ってもお金を払ってこない人がいます。当事務所では、その場合、新たな委任を受けて、相手の財産(不動産・銀行預金)を差し押さえるという申立(強制執行の申立て)をすることがあります。

 

●ところが…(差押えには障害が…)

 ところが、この強制執行の申立てが結構大変なことは意外と知られていません。裁判所は、こちらで相手の①銀行名②支店名を記載した申立書を出さないと差押命令を出すことすらしてくれないのです。これは、法律に定めがあるのではなく裁判所実務の永年の取り扱いなのです。昔は、多数の差押えが同時に競合した時に困るので支店を特定しないといけないという理由だったようですが、オンラインで全支店の状況が分かる今日、この扱いが妥当なのかどうか私はかねて疑問に思っています。どちらかというと、沢山申立てが来ると困る裁判所と銀行が結託して、申立てをしにくくしているように見えてならないのですが、そんなことを今言っていても始まりません。裁判所がそう言っている以上、こちらは①銀行名と②支店名を一生懸命調べるしかありません。しかし、普通、相手の銀行口座がどこにあるかなんてこちらは分からないことも多いですし、こんな訴訟になっている場合には尚更のこと、先方は自分の預金のありかなんて教えてくれません。昨今、インターネットで色々な預金を開設することも送金することもとても簡単ですから「判決で負けた」と分かった瞬間に預金を隠してしまうというようなひどい人もいます。特に困るのは「支店名」です。たぶん〇〇銀行に口座を持っているだろうなと分かっていても、支店名が分からないということも少なくありません。

 

20204月施行の改正民事執行法

 このようなことに対処するために本年4月施行の改正民事執行法では、判決などの債務名義を持っている人が申し立てると銀行等に情報提供を命じる制度をスタートさせました。改正民事執行法207条の「第三者(銀行など)~の情報取得手続」の施行は2020年4月。当事務所でも早速数件の申立てを行いました。たまたま、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で裁判所の事務がストップした時期と重なり、暫く時間がかかりましたが、近時は裁判所は通常の体制に戻りつつあり、順次命令が発令されて、預金口座の所在が各金融機関から回答されてきています。

 この申立てにはいくつかの要件があり、また養育費債権等については銀行だけでなく市町村役場や日本年金機構等から給与債権に関する情報を取得する手続きも設けられています(給料差押や給料振込先預金口座差押のためのものです[改正民事執行法206条])。