あおり運転に関する法改正について【2020年8月号】弁護士馬場梨代

 

1 2つの法改正

今年6月、あおり運転に関する法改正が相次いで行われました。①自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律、②道路交通法の改正です。①については、あおり運転により人を死傷させた場合に対応する危険運転致死傷罪の新たな類型が設けられ、②については、あおり運転をしただけでも「妨害運転罪」として道交法上の犯罪に当たるものとし、併せて、免許の取消も含む重い処分を課すものとされました。ここでは、①について少し詳しく述べたいと思います。

 

2 危険運転致死傷罪とは

例えば、車で事故を起こし、相手が亡くなったり、けがをした場合、多くは「過失運転致死傷」に問われることになります。過失運転致死傷の場合、法律上科すことのできる刑は「1か月以上7年以下の懲役・禁固」又は罰金です。これは、多くの犯罪と比較し、必ずしも重い刑ではありません。

ただ、交通事故の中にも、非常に悪質な運転によって起きるものがあります。過失運転致死傷よりも重い責任を負わせたいという場合、かつては、ごく限られた事案において殺人罪・傷害罪等を適用する他ありませんでしたが、平成13年の法改正により、重大な死傷の結果を生じる運転行為について、「危険運転致死傷」という犯罪が新たに作られ、比較的重い刑を科すことが可能となりました。

 

3 今回の改正点

近年、「あおり運転」が重大な問題となる中、これまでの「危険運転」の枠に収まらないものが出てきました。改正前の法律は、他人の運転を妨害する目的で行う運転行為を危険運転として罪に問うためには、加害者自身が「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」が必要であるとしていました。つまり、被害者の車の前で停車するという行為は、法律でいう「危険運転」の類型には当てはまらないものでした。平成29年に起きた東名高速の事件では、まさにこの点が問題となりました。

今回の法改正では、危険運転の類型として、以下の二つが追加されています。

(1)車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のもの)に接近することとなる方法で自動車を運転すること

(2)高速自動車国道又は自動車専用道路において、車の通行を妨害する目的で、走行中の車に著しく接近することとなる方法で自動車を運転し、車に停止又は徐行をさせること

簡単にいうと、例えば走行中の車の前に出て急ブレーキをするなどの停車行為についても「危険運転」に含まれるということになります。

 

 このような改正がされたとはいっても、危険な運転に遭遇する可能性はゼロではありません。警察庁の公開しているリーフレットでも、①ドライブレコーダーを装着したり、②いざとなれば安全な場所に停車し、車外に出ることなく110番をするなどの落ち着いた対処をすることが呼びかけられています。