相続法が改正されました(榎本修弁護士)

相続法が改正されました  【2018年8月号】

                                         弁護士  榎  本       修


 先月(2018年7月)国会で、相続法改正(①民法の相続規定改正、②法務局遺言保管法制定等)が成立しました。重要な部分があり施行日もバラバラで複雑です。「遺言を作りたい」「相続税を考えてプランニングしたい」という場合、大きく関係してきます。

 このニュースレターでは、榎本の独断と偏見で、 ①重要な順に、 ②ポイントを絞ってご説明します。

1 遺言制度の見なおし

 生前「遺言を書いて貸金庫に入れたから」と場所を教えてくれればいいのですが、そういう事例は少ないです。そうすると、亡くなった後に「遺言どこかにあるのかなあ?」と家探しが必要で大変です。  
 これに対処するために「法務局における遺言書の保管等に関する法律」ができました。法務局というのは、国の機関である法務省の出先機関で、名古屋で言えば、名古屋城の近くに「名古屋法務局」があります。ここで遺言を預かってくれるというものです(2020年7月までに施行。また、保管申請に手数料が必要)。  

 遺言には3つの方法があります。
 ①自筆証書遺言(自分で遺言を書く)
 ②秘密証書遺言(自分で書き封する)
 ③公正証書遺言(公証役場で作る) の3つですが、法務局で預かってくれるのは、①だけです。  

 今回の改正では、①の自筆証書遺言の作り方について財産目録だけはパソコンで作っても良いなど、作り方を少し簡易にしました(2019年1月施行)。このように、今回の法律では自筆証書遺言を使いやすくしたのですが、弁護士としては圧倒的に③公正証書遺言をお勧めします。

2 「特別寄与料」の創設  

 相続人以外の人でも、①無償で、②療養看護などをして被相続人の財産の維持増加に特別の寄与をした場合、特別寄与料を請求できるという制度が創設されました(2019年10月までに施行)。これは、無償で監護した人に報いるという意味があるのですが、かなり「もめそうな」制度に見えます。

3 遺留分制度の見なおし  

 遺言で取り分が少なかった人が取り返す「遺留分(いりゅうぶん)」制度も、これまで被相続人の全人生にわたっての「特別受益」(遺産の前渡し)を計算していたものが、相続開始前10年間にされた贈与に限られることになりました(改正法施行日(2019年7月までで政令で定める日)以降に発生した相続のみに適用)。   
 これは、紛争の範囲を絞るという意味ではよいですが、「前もらいをした人は、くれた人の長生きを祈る」ということになり、10年目と11年目の贈与というボーダーラインでは、やはりもめそうです。元々民法は遺産分割について「一切の事情を考慮して」決めると規定しており(民法906条)、11年目の贈与も「一切の事情」に入りそうといったこともあります。  

 これ以外にも今回の改正では、①配偶者居住権の創設、②預貯金の仮払い制度の創設など様々な内容が盛り込まれています。相続法の分野は、今後、相当程度今回の改正の影響を受けます。