株主代表訴訟【2022年8月号】弁護士亀村恭平

 

1 はじめに

 13兆3210億円と聞いて、何の数字かわかる方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。あまりにも金額が大きく、どこかの国家予算かと思われるかもしれませんが、答えは2022年7月13日に東京地方裁判所が東京電力の旧経営陣に支払いを命じた金額です。

 この裁判は、個人が到底支払うことができないと思われる賠償を命じた点で大きく報道されましたので、ご存じの方も多いかと思います。今回は、この裁判でも利用された株主代表訴訟についてご紹介します。

 

2 株主代表訴訟とは

 株主代表訴訟とは、株主が会社を代表して役員の法的責任を追及する訴訟です。会社の損害についての役員に対する損害賠償請求ですので、本来であれば株主が当事者となるものではありませんが、会社としての決定を役員がする以上、自分で自分を訴えることが期待できない場合があります。そのため、株主が会社に対して損害賠償請求をするよう請求したにもかかわらず、会社側が対応しない場合に株主が会社に代わって訴訟を提起できるとしたのが株主代表訴訟です。

 

3 蛇の目ミシン事件

 株主代表訴訟の代表例としてよく挙げられてきたのは蛇の目ミシン事件です。この事件は、株主の恐喝行為に対して警察に届け出るなどの適切な対応をせずに金銭を支払った点や、株主に対して利益供与をした点について役員の責任を認め、約583億円の支払いを命じた裁判例です。この事件も高額の賠償を命じていますが、賠償額でいえば東京電力の事件が大きく上回ることとなりました。

 

4 役員が取り得る対策

 これらの事件のように高額な賠償が認められると、役員報酬に比べて役員が過度なリスクを負うことも考えられます。そこで、会社法425条は、役員が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合に、株主総会の決議によって制限することを認めています。一切責任を負わないというわけにはいきませんが、たとえば代表取締役の場合年間報酬の6倍までに制限することができます。

 また、役員賠償責任保険に加入するという方法も考えられます。しかし、一般的には限度額が定められているため、ご紹介した事例で保険加入していても、賠償が命じられた約13兆円や約583億円が保険会社によって支払われるわけではないという問題もあります。

 

5 最後に

 冒頭でご紹介した東京電力の事件は、報道によれば双方から控訴されたようです。蛇の目ミシン事件でも控訴審と最高裁で責任を認めるか否かの判断がわかれていますので、何年後になるかわかりませんが、控訴審、最高裁の判断は注目する必要があります。

 また、株主代表訴訟が提起されると、被告とされた役員にとっては大きな負担となり、経営に支障が生じる可能性がある点で会社にとってもマイナスになることもあります。役員が過度な負担を負うことを予防するためには、ご紹介した責任限定の制度や保険の活用もご検討いただければと思います。