「新型コロナ・事業者賃貸借ADR」が始まりました【2020年12月号】弁護士今井千尋

 新型コロナウイルス問題の影響で事業が不振に陥ったので賃貸人に店舗や事務所の賃料の減額や支払猶予を求めたい、あるいは賃借人から事業不振を理由に賃料の減額や支払猶予を求められているといったご相談を受けることが増えてきました。そのような場合、まずは当事者間で協議を行うのですが、協議がうまく調わないことがあります。そのような場合に役立つ、「新型コロナ・事業者賃貸借ADR」がこの度始まりましたので、ご紹介いたします。

 

1 「新型コロナ・事業者賃貸借ADR」とは

 愛知県弁護士会等の各地の弁護士会が行う、新型コロナウイルス問題に起因する事業者の賃貸借に関する紛争を対象としたADR(裁判外の紛争解決手続)です。この手続は非公開で、利害関係のない弁護士があっせん人として当事者の間に入り、双方から事情を聞き、協議による紛争の解決を目指します。

 なお、愛知県以外では、東京や大阪などでも同様のADRが始まっているようです。

 

2 実施期間

 「新型コロナ・事業者賃貸借ADR」はパイロット事業ですので、令和2年12月1日から令和3年2月28日までの期間限定(ただし、期間が延長される可能性があります。)で行われます。

 

3 手続の流れ

 あっせんの申立を行うとあっせん人が選任され、第1回期日の指定がされて両当事者に通知がなされます。相手方が手続に応諾すると、期日において弁護士会館にてあっせん人を交えて話し合いが行われます(交互にあっせん人のいる部屋に入室して事情を聞かれることが多いです)。当事者間に合意が調うと和解契約書が作成され、当事者が和解契約書の内容を履行することになります。

 

4 手数料

 愛知県弁護士会紛争解決センターの通常のADRにおいては、申立手数料として1万円(税抜)、成立手数料として一定の金額(例えば解決額が300万円の場合12万8000円(税抜)。ただし、原則として両当事者で折半となります。)がかかりますが、「新型コロナ・事業者賃貸借ADR」の場合、申立手数料は無料、成立手数料は通常のADRの半額となっています。