相続法が改正されました(その3)(弁護士榎本修)

相続法が改正されました(その3)【2019年6月号】  弁護士 榎本 修

 

 相続法(民法)改正については、すでに2018年8月号で取り上げ、9月号でも杉浦弁護士が書かせていただきました。しかし、その後、本格的な施行時期(2019年7月1日)が迫ってきたこともあり、最近も当事務所に様々なご相談が寄せられていることから、先回書ききれなかった部分を中心に第3弾を書かせていただきます。

 

(預貯金の仮払い制度)

~これは、今回の相続法改正で新たに設けられた制度です~

 

1 これまで

 預金の相続手続は、昔は、もっとおおらかでした。金融機関の担当者が、本当は、もうだいぶ前に本人が亡くなっていることが分かっていても「預金が引き出せないと、日々の生活費、最後の病院代や葬儀代、お墓のお金も払えないですよね」と理解してくれ、本人が生きていることにして、預金を解約させてくれることもありました。

 

2 問題点

 しかし、だんだん世の中が世知辛くなりました。誰かが解約した後で「なんで、あいつに渡した。俺(私)も相続人だ」と金融機関に怒鳴り込んでくるといったトラブルが増えたのです。兄弟げんかなど相続人同士でトラブルがある家庭では、誰かが引き出した預金を他の相続人にきちんと分配するといったことはしてくれません(「いや、俺が最後の病院代を立て替えて払ったんだから、相殺だ」というような主張もあります)。金融機関も、この手のトラブルに懲りて、だんだん「〇〇さんが死んだ」ということを知った瞬間に預金を凍結してしまう実務に変わってしまいました。そして「相続人全員の印鑑がないと、預金はおろせません」という対応になります。これなら、金融機関はリスクが少ないからです。しかし、家庭の中でもめている場合は、すぐには全員の印鑑がそろいません。場合によっては、裁判所での様々な手続きを経ないと確定しないこともあり、数年単位で手続きが止まってしまうこともありました。そこに、最高裁が平成28年12月19日に新しい判例を出したりして金融機関もどのように対応したらよいか益々混迷を深めていました。

 

3 今回の相続法改正

 以上のような状況のもと、今回の相続法(民法)改正では、下記のような新しい手続きを設けました。

(1)各相続人が払戻しできる制度

 大まかにいうと残高の3分の1×法定相続分は、(他の相続人の印鑑なく)単独で払戻しが受けられます(改正民法909条の2。ただし、150万円が上限(平成30年法務省令第29号))。

(2)保全処分の要件緩和

 (1)で足りない場合でも家庭裁判所の保全処分(仮処分)によって、預貯金を払い戻しやすくするように要件が緩和されました(家事事件手続法200条2項)。

 

4 コメント

 上記3(1)で最大限150万円までは他の相続人の印鑑なくしておろせることになったのですが、それ以上の額については何らかの手続きが必要であることに変わりはありません。