契約書の効力

契約書の効力  【2006年9月号】

弁護士 安  田   剛

 
 
  契約や取引を始める際に、契約書を作成することはとても重要なことです。また、その契約書の内容を、出来る限り当方に有利に作成したいというのも当然のことでしょう。

  もっとも、ただ闇雲に当方に有利な条件を契約書に盛り込めばよいとは限らない、というのが今回のテーマです。有利で一見良さそうに思える条項でも、法律でそのような条項の定め方は無効とされることもあるのです。

  例えば、当方が会社で、相手が個人の顧客であるとしましょう。ある商品を個人の顧客に売る、そのような商品の売買契約を結んだとして、その売買契約書に「商品にどのような欠陥があっても、売主は買主に瑕疵担保責任は負わない。」という条項を盛り込んだとします。瑕疵担保責任とは商品に欠陥があったときに、契約の解除(代金の返還)や損害賠償請求ができるというもので、売主である当方にとってはそのような責任は負わないとした方が当然好都合です。

  しかし、相手が個人の顧客である場合、このような条項は「消費者契約法」により無効とされてしまいます。つまり、せっかく契約書に有利な条項を盛り込んでも意味がないわけです。

  同様の契約で、キャンセルした場合に多額の違約金を支払う旨の条項を契約書に盛り込んだとします。このような場合も、個人の顧客との取引では一定の範囲内に違約金の金額が制限されることになる可能性が高いと思われます。

  また、他にも、金銭の貸し借りで利息制限法の利率を越えるような高い利息の定めを設定したとしても、その部分は無効となってしまいますし、アパート・ビル等の賃貸借契約で「貸主は何時でも借主にアパートの退去を求めることができ、退去を求められた借主は貸主に立退料を請求できない。」という条項を設けたとしても、借地借家法により無効となってしまいます。

  以上のように契約書には、ただ単に当方に有利な条項を盛り込めばよいというわけでもありません。

  もっとも、裁判所に行けば、無効とされるかもしれないが、そのような条項を盛り込んでおくことで、実際の相手との協議や交渉を有利に進めるという戦略的な考え方もあり得るところです。

  契約書の内容をどのように作成するかは、色々な面で考えるべき点があると思いますので、お気軽に御相談ください。