「契約書」 ~上手なリーガルチェックの依頼法~【2024年4月号】弁護士榎本修

 

「これは上手な弁護士の使い方だなぁ」と思うこと 

 顧問先の方から「契約書のリーガルチェックをお願いしたいです」という場合、色んな形での依頼がありますが、「これは上手な弁護士への依頼法だなぁ」と思うことがあります。 

 例えば「この契約書では、先方が力が強いので(立場が上なので)、こちらから『この条文をこんな風に修正してください』とはとても交渉できません。この契約書は丸のみするしかないです」という場合です。この場合は、チェックして当方に不利な点を指摘しても交渉ができないのでリーガルチェックには無理があるようにも思えます。

 しかし、ここからがポイントです。「ただ、この契約書を使って取引してゆく上で、どういう点に注意していけばリスクを避けたり減らしたりできるか、ということをアドバイスしてください。しかし、具体的な取引の中身弁護士さんは知らないと思いますので、ZOOMなどの面談で弁護士さんとやりとりする中で取引の中身や、取引の中でできること、できないことを説明します。その中でアドバイスをしてもらえませんか?」という方法です。

 これは、かなり上手な依頼方法です。例えば、「この契約書の第2条には、△△する場合には、2週間前に相手方に通知しなければならない」と書いてあり、第10条によるとこれを怠ると契約が解除されてしまうことになっています。本当にこの条文は守れますか?」とお尋ねすると「それはよっぽど気を付けていないと現実的には無理です」という場合が時々あります。そこで「この条文の約束を守れないならば、変更の交渉をした方が良いですが、今回は交渉は難しいということですね。では、営業担当の方とも十分に連携をとって、万一△△するようなことが営業上必要という場合には、必ず総務御担当の方とも連携をとって、相手方への通知を怠らないように注意しておくことが必要ですね。このようなケースでは、両者の連携が上手くいかず、通知を怠るようなミスやトラブルが生じがちです。そういうことが内容に気を付けておくことがこの契約書では重要ですね」というようなアドバイスが弁護士からできることになります。

 

相手方の提示した案文を丸のみしなければならないことは、結構多い

 実際に企業を経営していく上では、例えば行政関係の相手方との契約書などを作る場合や、相手の立場が上である場合など、相手の提示した契約書の案文を丸のみしなければならないことは結構多いものです。このような場合に「リスクを共有して回避する方式のリーガルチェック」が役立つのではないでしょうか。

 このような依頼であれば、「相手から契約書の案文が送られてきたので、なんかよく分からないけど、弁護士さんチェックお願いしまーす」という依頼の仕方では得られない有益な情報を弁護士も提供できると思います。「どういう内容の契約書であるのか一緒に理解し、リスクを避けるために弁護士と一緒に考える」ということができると、顧問弁護士にリーガルチェックを依頼する意味がより高まると思います。