最近の裁判例から

最近の裁判例から~会社分割が違法として取り消された事例~(最高裁平成24年10月12日判決)【2012年11月号】

弁護士  榎  本        修




1 不採算部門を切り離したいとき

 企業経営が苦しいと、不採算部門を切り離す「会社分割」が行われることがあります。不採算部門(
A社)と採算部門(B社)に会社を分割するのです。会社分割には、①このように会社を二分する「新設分割」(会社法762条以下)と②ある部門を他の会社に吸収させて分割する「吸収分割」(同757条以下)という2つの方法がありますが、今回の最高裁判決では、この「新設分割」が取り消されました。

 このような事業のリストラクチャリングには、会社分割以外にも事業譲渡(会社法
467条)など様々な方法があります。会社の実情に応じ、税務・会計的な観点から様々なMAの手法も勘案して適切な方法を採ってゆきます。会社分割は2001年制定の比較的新しい手法で裁判例もまだ比較的少ないので、今回の最高裁判例は、今後の企業再建に重要なものと注目されているのです。

2 どのような事件か

 大阪地裁に提訴された事件です。ある会社が、不採算部門(
A部門)と採算部門(B部門)に会社分割を行ったのですが、全部の債務を引き継がず、一部の保証債務を不採算部門(A部門)だけに継承させました。債権者は、会社分割手続の中で異議を述べる機会があるのですが(会社法810条)、異議申立期間の前には)債権者に通知が来ることが少なく*異議申立期間が1カ月と短いことが多い(同条2項)ので、債権者は異議を述べるチャンスを失うことが少なくありません。

3 裁判所の判断(今回の判決)

 今回の最高裁判決では、異議申立期間の
1カ月が過ぎても、民法424条の「詐害(さがい)行為取消権」で会社分割を取り消すことが認めました。こちらの時効は2年間なので(民法426条)、異議申立期間の1カ月が過ぎていても行使することができるのです。

4 裁判例に学ぶこと

 債権者の立場(お金を請求する側)に立ったとき、この判例の詐害行為取消権はありがたいのですが、この訴訟は複雑で時間もかかります。しかし、本件でもし1カ月以内に会社分割に異議を出せれば、自分だけ優先弁済を受けるチャンスもありました(会社法
8105項)。ですから、取引先が業況不振なら、新聞社告に十分注意する等情報収集に意を払うことが重要です。

 また、逆に債務者の立場(請求される側)では、今後、この判例を念頭に置き、取り消されない事業再編計画を策定する必要があります。 

 なお、今年8月法務省・法制審議会が決定して「会社法制の見直しに関する要綱案」では、この種の「濫用的会社分割」につき、近々会社法の条文の中で手当するとされているので、国会での更なる会社法改正にも要注意です。

 このような案件に関するご相談にも当事務所では積極的に対応させていただきますので、顧問先の皆様には、どのようなことでも結構ですのでお気軽にご相談ください。
 
 *官報に加えて「中日新聞」等の一般新聞紙に掲載すれば個々の債権者への通知は不要(会社法810条3項参照)。