カスハラ対策が義務付けられました【2025年7月号】弁護士今井千尋
令和7年6月4日、労働施策総合推進法の一部を改正する法律が成立し、事業主に対し、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)対策を講じることが義務付けられました。今回はその主な内容をご紹介いたします。
1 カスハラの定義
改正労働施策総合推進法(以下「改正法」といいます。)では、カスハラを、①職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの、により③労働環境が害されること、と定義しました。顧客による土下座の強要や担当者に対する侮辱などがこれに該当します。
2 事業者の義務
改正法は、事業主に対し、カスハラに関する労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備等の措置を講じることを義務付けました。具体的にどのような措置を講じなければならないかに関しては、今後厚生労働省が指針を定めることになっていますので、情報収集に努めることが重要です。
また、労働者がカスハラに関する相談を行ったことや事業主による相談対応に協力した際に事実を述べたことを理由として労働者に不利益な取扱いを行うことが禁止されました。
3 事業主の努力義務
改正法は、事業主に対し、努力義務として、下記事項を行うことを求めています。
①他の事業主からカスハラについての措置の実施に関し必要な協力を求められた場合に、これに応じること
②労働者がカスハラ言動を行わないよう研修等を実施すること
③事業主自らもカスハラ言動を行わないこと
4 労働者及び顧客等の努力義務
改正法は、労働者や顧客等に対しても、カスハラ言動を行わないよう努めることを求めています。
5 違反の公表
改正法では、上記2の事業主の義務に違反している事業主に対し勧告がなされたにもかかわらず当該事業主がこれに従わないときは、その旨を公表することができるとされました。
6 改正法は、公布から1年6か月以内に施行されるものとなっており、遅くとも厚生労働省の指針が定められた後直ちに措置を講じる必要があります。
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