民事訴訟における住所・氏名等の秘匿制度 【2025年2月号】弁護士坂典子

 

 現在、民事訴訟において、相手方に自分の住所や氏名を知られることなく、裁判をすることができる場合があります。住所・氏名等の秘匿制度といいます。

 

1 立法経緯

 以前は、訴状には原告の住所・氏名を記載しなければならず、ご自身で訴訟される場合には裁判所からの書類等を受け取るために、送達先(ex.住所や職場等)の届出をしなければなりませんでした。また、誰でも、訴訟記録の閲覧をすることができ、当事者に対して訴訟記録の閲覧を制限することを認める規定もありませんでした。そのため、性犯罪やDV等の被害者が、加害者に対し、自己の氏名や現在の住所地等を知られることをおそれ、損害賠償を請求する訴えを躊躇して泣き寝入りすることも多かったのです。

 そこで、令和4年に民事訴訟法が改正され、新たに133条~133条の4で「当事者に対する住所、氏名等の秘匿」制度が設けられました。

 

2 住所、氏名等秘匿制度の内容

() 住所、氏名等の秘匿決定(民事訴訟法第133条)

 住所・氏名等を秘匿したい者が裁判所へ申し立てを行い、要件を充足していれば、裁判所から秘匿決定を受けて、真の住所・氏名を秘匿したまま訴訟を行えるという制度です。具体的な例を挙げますと、「名古屋市中区丸の内三丁目20番17号 Kマンション12号室 坂典子」という情報を、「代替住所A 代替氏名A」や、「名古屋市 代替氏名A」等と特定されない形での記載が可能となります。

① 秘匿の対象(民事訴訟法第133条1項)

 秘匿の対象となる情報は、「申立て等をする者又はその法定代理人」の「住所等」と「氏名等」と定められています。「住所等」とは、申立等をする住所に限らず、居所その他その通常所在する場所(例えば職場など)が含まれると考えられています。また、「氏名等」とは、氏名に限らず、その他当該者を特定するに足りる事項(例えば本籍地など)が含まれると考えられています。

② 秘匿決定の要件(民事訴訟法第133条1項)

 秘匿決定の要件は、「住所等又は氏名等の全部または一部が当事者に知られることによって、申立て等をする者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」です。立証は、疎明(裁判官が事実について完全に確信するまでには至らないものの、おおよそ確かだと納得する程度の確信で足りる)で足りるとされていて、迅速な審理・判断が予定されています。「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある」といえるための証拠の一例として、診断書や警察への被害届、行政の被害者支援を受けていることが分かる資料等が考えられます。

③ 秘匿決定の効果(民事訴訟法第133条5項、第133条の2第1項等)

 秘匿決定の効果としては、まず、先の具体例で出しました通り、秘匿決定において定めた住所又は氏名の代替事項を記載すれば、真の住所又は氏名の記載は不要になります。また、申立の際に提出した秘匿事項届出書面の(他の)当事者の閲覧等が制限されます(閲覧できてしまうと秘匿した意味がなくなりますよね)。

(2) 住所、氏名等の閲覧等の制限の決定(民事訴訟法第133条の2)

 秘匿決定があった場合に、秘匿決定を受けた者(秘匿対象者)の申し出により、住所・氏名等の秘匿事項だけではなく、秘匿事項を推知できる事項の記載部分を見たり、写しを取得することを制限する制度です。裁判においては、数多くの証拠を提出します。証拠の中に、住所や氏名を推知するような情報が含まれる可能性も高いです。そのため、かかる情報にも秘匿の制限を及ぼすことができるようになります。

 

 法律が施行されてからまもなく2年となります。児童虐待やストーカー、反社会的勢力が問題となる事案等も想定して設けられた制度のようですが、実際にどのようなケースに多く利用されているのか、非常に気になるところです。