カスタマー ・ハラスメント対策の必要性【2024年8月号】弁護士池田篤紀

 

 本来、顧客からのクレーム・苦情等は、商品・サービス、接客態度等に対して不満をのべるものであり、それ自体法的な問題とはなりません。むしろ、業務・サービスの改善、商品開発につながるものですので、真摯に受け取るべきものです。

 しかし、クレーム・苦情等を超え、過剰な要求を行ったり、不当な言いがかりをつけられる場合があります。いわゆるカスタマー・ハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)と呼ばれるものです。クレーム・苦情とカスハラを明確に区別することは難しいのですが、顧客が不平不満の電話を長時間かつ頻繁にかけてくる、閉店後数時間も居座られる、土下座を強要される、殴られる、業務終了後も待ち伏せされ自宅を特定される、など耳を疑うようなご相談を受けることがあります。

 このようなカスハラは、対応にあたった従業員に過度な精神的なストレスを感じさせてしまいます。心境としては、「自分のミスにより発生したから、自分自身で対応するほかない」、「会社に迷惑かけたくない。」、「でも本当はつらい、怖い、助けてほしい」というものだと思います。そして、場合によっては、通常業務に支障が出て、精神的ストレスのうえ退職してしまうこともあります。会社としても、カスハラ対応に追われ、時間の浪費、人員確保できず、金銭的損失、ブランドイメージの低下など、多大な損失を招くことが想定されます。

 そこで、「従業員・会社を守るため」、カスハラを想定した事前準備、カスハラが実際に起こった際の対応を具体的に検討しておくことが求められると考えます。

重要なのは以下の点です。 

 

①組織としてカスハラから従業員を守るという基本方針を示すこと

②従業員のための相談体制の整備すること

③カスハラ該当性の判断基準の明確にすること

④カスハラ行為への対応体制、方法等をあらかじめ決めておくこと

⑤再発防止のための取り組みを行うこと

 

 会社が真摯にカスハラに取り組む姿勢及び従業員を守るために行うということを周知することができれば、従業員としてもそれだけでも心強いです。また、カスハラ該当性の基準が明確になり、その対応体制・方法があらかじめ決まっていれば、そのとおりに対応すればいい、という安心感が産まれます。

 カスハラは予防が困難な以上、以上のような取り組みが必要となります。今回は対策の必要性にとどまりましたが、次回は、カスハラへの具体的な対策についてご説明していきたいと思います。