株式会社の代表者の住所非表示措置【2024年5月号】弁護士今井千尋

 令和6年10月1日から、株式会社の代表者(代表取締役、代表執行役、代表清算人)の住所の一部を登記事項証明書、登記事項要約書及びインターネット登記情報に表示しないこととする措置(以下「住所非表示措置」といいます。)をとることが可能になることをご存知でしょうか。今回は、この住所非表示措置制度についてご紹介いたします。

 

1 制度の概要

会社の登記を確認する(誰でも行うことができます。)と、代表者の住所が表示されているのが原則ですが、このことは代表者の個人情報保護に欠ける点や起業の障害となる点などから問題であるとの意見が見られました。そこで、商業登記規則等の一部を改正する法務省令により、DVやストーカー等の被害者である代表者(こちらは令和4年9月から施行されています。)だけでなく、住所の公開を望まない株式会社の代表者であれば申出により住所非表示措置をとることが可能になりました。

この措置をとれば、代表者の住所の表示は市区町村まで(東京都の場合は特別区まで、政令指定都市の場合は区まで)となります。

 

2 注意点

① 登記申請と同時に申し出る必要があります。

 住所非表示措置の申出はいつでも行うことができるわけではなく、会社設立や代表者の就任又は住所変更等の登記を行う際にのみ行うことができます。

② 登記義務は免除されません。

 住所非表示措置がとられた場合であっても、代表者の住所変更があった場合、その旨の登記申請をする義務自体は免除されず、これを行う必要があります。

③ 登記官が職権によって措置を終了させる場合があります。

 住所非表示措置がとられた会社から同措置を希望しない申出があった場合や住所非表示措置がとられた会社の本店がその所在場所において実在すると認められないときなどにおいて、登記官が職権で同措置を終了させることがあります。

 

3 デメリット

住所非表示措置がとられた場合、登記事項証明書等によって代表者の住所を証明することができないため、金融機関から融資を受けたり、取引を行う際に必要な書類が増える可能性があると言われています。

なお、弁護士の立場から見ると、民事訴訟を提起する際などにおいて、相手方につき住所非表示措置がとられている場合、書類の送達に手間が増える可能性があります。