秘密保持契約書の留意点【2024年2月号】弁護士安田剛
取引先の会社と新規事業を共同で開始することを検討していますが、取引先の会社から「秘密保持契約書」を締結して欲しいと言われました。どのような内容で契約書を締結すれば良いでしょうか。
●「秘密保持契約書」とは?
秘密保持契約書とは、NDA(Non-Disclosure Agreement)とも呼ばれますが、新規事業や取引を開始する際に、自社の秘密情報を取引先の会社に開示する場合に、情報の開示を受けた者の守るべき義務(秘密保持義務)や秘密保持義務の対象となる「秘密情報」の範囲などを定める契約のことをいいます。
●なぜ必要か?
秘密保持契約書を締結していないと、他の会社が自社の情報を漏えいしたり、目的外利用されてしまった場合でも、責任追及できなくなる可能性があります。自社の情報を守るため、安心して新規事業の検討をすることができるようにするために、秘密保持契約書の締結が必要です。従って、秘密保持契約書は、新規の取引開始時や、開始前の検討段階など、時系列の上では、比較的早い段階で結ぶことが多い契約です。
●どのような点に留意すればよいか?
まず、自社の立ち位置を踏まえた契約内容を意識することが大切です。例えば、当該取引において、①自社は情報を開示する側に立つのか、あるいは逆に②情報を受領する側に立つのか、または③その両方(開示することも、受領することもある)の立場なのか、という点です。
秘密保持契約書では、まず最初に、秘密保持義務の対象となる「秘密情報」を定義する条項が必要ですが、①自社が情報を開示する側に立つのであれば、秘密情報の範囲はできる限り広く緩やかに定義づけした方が有利です。他方で、②自社が情報を受領する方に立つのであれば、秘密情報の範囲はできる限り狭く限定的に定義されている方が、その分秘密保持義務を負う範囲が限定されるため、好都合であると考えられます。
また、秘密保持義務に違反した場合の損害賠償等の責任の内容の条項についても、①自社が情報を開示する側に立つのであれば、明確に適切な責任追及ができるように定めておかなければなりませんが、逆に②自社が情報を受領する側に立つのであれば、そのような責任は可能な限り軽減させるような内容で定めておく方が良いと考えられます。
このように秘密保持契約書の作成にあたっては、自社の立場を明確に意識して契約書の内容を検討する必要があり、「NDAだから標準的なひな形で契約しておけば良いだろう」と安易に考えてしまうと、後日不利益を受ける可能性があるので、十分留意してください。
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