民事裁判のIT化について【2022年12月号】弁護士安田剛

 

 民事訴訟手続のIT化等に関する民事訴訟等の改正法案が、2022年5月の国会で成立し、今後順次施行される予定です。今回は、民事訴訟手続(民事裁判)のIT化について、全てではありませんが、主なポイントをご紹介します。

 

①民事裁判の期日のウェブ会議の活用

 民事裁判の期日について、ウェブ会議を利用して、裁判所に出頭しなくても参加できる場面が拡大します。2020年の新型コロナ禍以降、主な裁判所では、マイクロソフト社のTeamsを利用したウェブ会議により、裁判所に出頭しなくても裁判期日に出席できる運用が始まっています。現在でも、私の実感としては、ほとんどの民事裁判で、ウェブ会議で裁判期日に出席することが多いです。

 しかし、この運用は、書面による準備手続という今まであまり活用されていなかった民事訴訟法上の規定を利用して便宜的に始まったものでした。本年5月の民事訴訟法改正において、法令上、法制度上も、口頭弁論期日や弁論準備手続等で、ウェブ会議を利用した出席方法が認められることになります(ただし、ウェブ会議で出席できるのは、今後も当面の間は、弁護士等が訴訟代理人になっており、弁護士の事務所から参加する場合に限られます)。

 

②オンライン申立ての義務化

 民事訴訟を提起する場合に、弁護士等が代理人となっている場合に限って、オンラインによる申立てが義務化されることになりました(2026年頃施行予定)。現在は、民事訴訟を提起して相手方を訴えようとする場合、訴状という書面を作成し、関係書類をそろえて裁判所の窓口に持参したり、郵便で送付する必要がありますが、これをインターネット上で手続できるようにするものです。ただし、訴訟提起はオンラインでも、相手方となる被告への訴状等の送達は、原則として書面による送達(オンラインで提出した記録を裁判所がプリントアウトして送達する)となります。これは、裁判の最初の時点では、訴訟の相手方(被告)のオンライン上の送付先が明らかでないことが多いためです。

 将来的には、弁護士等が代理人となっている場合に限定せず、全ての民事訴訟について、オンラインによる申立てを義務化することになるものと思われます。

 

③6か月以内で訴訟終結する手続(法定審理期間訴訟手続)の新設

 IT化と直接関係がありませんが、今回の民事訴訟法の改正では、6か月以内で訴訟終結(口頭弁論の終結)して、その後1か月以内に判決を言い渡す手続も新設されました(2026年頃施行予定)。既に労働事件(未払賃金の請求、不当な解雇の無効などを争う雇用関係・労働関係の事件)では、労働審判という3回以内の期日で結論を出す手続がありますが、これと似た手続きを民事裁判一般で行おうとするものです。私の実感としても、「裁判は時間がかかりすぎる」と思いますし、統計的にも民事訴訟の利用件数は減少しています。「使える制度」であれば、積極的に利用してゆきたいところです。