相隣関係の法改正【2023年3月号】弁護士亀村恭平
1 はじめに
近年民法の改正が頻繁に行われていますが、2023年4月には相隣関係の改正法が施行されます。今回は、改正内容のうち「越境した竹木の枝の切取り」に関する内容をご紹介します。
2 改正前のルールは?
隣地に生えている木の枝が、境界を越えて伸びてきたという経験はあるでしょうか。民法にはその場合の規定があり、改正前のルールでは「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。」とされていました。
つまり、枝が越境してきても勝手に切ることはできず、隣地の所有者に請求しても応じない場合には、訴えを提起し、切除を命ずる判決を得て強制執行の手続をとる必要があります。そのため、枝の切除を求めるだけで費用も時間もかかるという問題がありました。なお、根に関しては「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。」とされているため、同じ越境であっても枝と根で扱いが異なる条文として法律を学ぶ際の話のネタにもされています。
3 改正後はどうなる?
今回の改正の目的は、枝が越境するたびに常に訴えを提起しなければならないとすると、救済を受けるための手続が過重であるという問題を解消することにあります。他方で、隣地所有者の権利にも配慮する必要があるため、越境すれば全て自由に切ることができるとはされていません。
新法で枝の切除が可能になるケースとしては、
・竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したが、竹木の所有者が相当の期間内(法律上明確にはなっていないものの、2週間程度と考えられています)に切除しないとき
・竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
・急迫の事情があるとき
とされています。そのため、法改正の内容を誤解し、これらの要件にあたらないにもかかわらず勝手に切除することが無いよう注意が必要です。
なお、法律上明確にはされていないものの、越境された土地所有者が自ら枝を切り取る場合の費用については、枝が越境して土地所有権を侵害していること等の理由から、竹木の所有者に請求できると考えられています。
4 最後に
今回ご紹介したように、枝と根で取り扱いが異なる点は改正後でも変わらないものの、少なくとも越境した枝を切除するのに訴訟提起をしなければならないという不都合は解消されました。
また、放置された枝が道路にまで伸びたために運転中に道路標識が見えないといった経験をされた方もいらっしゃるかと思いますが、今回の法改正により、このようなケースで道路を管理する行政の立場でも枝を切除しやすくなるという効果も期待できます。
今後も日常生活に影響のある法改正について注目し、可能な限りご紹介していきたいと思います。
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