下請法改正【2025年8月号】弁護士亀村恭平

 

1 はじめに

 一般的に「下請法」と呼ばれている「下請代金支払遅延等防止法」が改正され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」として令和8年1月1日から施行されます。そこで、今回は下請法の改正についてご説明します。

 

2 下請法とは

 下請法は、下請取引の公正化と下請事業者の利益保護を目的として昭和31年に制定された法律です。

 取引の内容が①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託に限定されている点や、親事業者と下請業者の資本金の額によって適用の有無が異なるといった特徴があります。そのため、親事業者に巨大な売り上げがあっても、双方の資本金額によって下請法は適用されません。

 

3 主な改正点

(1)協議を適切に行わない代金額の決定の禁止

対等な価格交渉を確保する観点から、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず協議に応じなかったり、委託事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して中小受託事業者の利益を不当に害する行為を禁止する規定が新設されました。

具体的には、従前の価格がコストと利益をあわせて単価100円とされていたところ、コストが50円増加したとして価格協議を求めても、コストアップに見合わない引き上げしかしない=中小受託事業者の利益減少を強いることになる場合が想定されています。

(2)手形払等の禁止

中小受託事業者の保護のため、支払手段として手形払を認めないこととしています。また、電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては認めないこととされました。

現行法では、60日の支払い期限でさらに60日の手形サイトがあると現金受領までは120日かかることになりますが、手形払いを禁止することで60日以内に現金受領ができることになります。

(3)運送委託の対象取引への追加

 発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引が、対象となる新たな類型として追加されました。

(4)従業員基準の追加

 冒頭説明した通り現行法は資本金で区分されていますが、適用逃れを防ぐため、適用基準として従業員数の基準が新たに追加されます。

 そのため、令和8年1月1日以降の取引については、取引内容、資本金、従業員数から新法の適用の有無を確認する必要がありますので注意が必要です。

 

4 おわりに

 今回ご説明した内容は、紙幅の都合上法改正の一部にすぎず、それ以外にも細かい改正が含まれています。

 法律全般のルールとして、新法の成立や法改正については知らなかったでは許されません。細かい内容はともかく、法改正があるということだけでも気に留めていただければと思います。