遺産分割の使えるアイテム

遺産分割の使えるアイテム 【2013年11月号】

弁護士  杉   浦   宇   子

1遺産分割協議が大変なとき

 相続人が妻と子どもだけというようなとき、遺産分割の話し合いをもつこと自体は、それ程困難ではないでしょう。


 しかし、相続人の数が多くて、居住場所も遠方にちらばり、相続人同士が疎遠でほとんど交流がないような場合には、協議すること自体に難儀することもまれではありません。


 それでも、こればかりは、協議が面倒だからと放置しておくと、相続人の相続が発生して相続人の数が更に増えるなど、益々協議が面倒になりかねません。次の代に困難な遺産分割協議手続を先送りしないためにも、面倒でも、早目に遺産分割協議を進めることが大切です。


2『相続分の譲渡』の活用


 遺産分割協議が難航するようなとき、『相続分の譲渡』を活用できる場合があります。


 『相続分の譲渡』とは、相続人が、その相続人の地位を譲渡することをいい、譲渡の相手方は、他の相続人でも、そうではない第三者でもかまいません。自身の相続分を譲渡した相続人は、遺産分割協議が調う前に相続人の地位から離脱することができます。


3例えば・・・


 花子さんは60年連れ添った夫の太郎さんを亡くしました。二人には子がありません。太郎さんの兄弟5人も既に皆亡くなっておりますが、兄弟にはそれぞれ3人の子(甥姪)がいます。そのうち10名は、花子さんと同じ愛知県内に住んでいますが、他5名は、大分、山口、茨城、山形、北海道に住んでいます。


 この場合、亡き太郎さんの相続人は、妻花子さんと甥姪15名の合計16人です。16人もの日程を併せて一同に会して協議するのは相当に大変です。


 また、太郎さんの遺産は、自宅の土地建物と夫婦の生活費として取り崩してきた預金の残り1000万円だったとします。


 高齢の花子さんの立場からすると、元々太郎さんの貯蓄は夫婦の老後の生活資金ですから、今後の花子さんの生活資金として出来る限り確保したいと考えるでしょう。そんな場合、例えば、遠方に住む甥姪に対して、相続分の譲渡をしてくれるよう申し入れてみるのも良いでしょう。


 遠方の相続人の中には、何も遺産を取得できなくても、相続分を譲渡して、遠方の協議に参加する苦痛から逃れる方がメリットがあると考える人もいます。遠方に住む甥姪が、花子さんに相続分を譲渡すると、遠方の相続人は、遺産分割協議の苦痛から解放され、花子さんは、自身の相続分を増すことができ、遺産分割に協議すべき相続人の数は減るので、協議もしやすくなります。


 遠方に住む甥姪全員が、花子さんに相続分を譲渡すると、遺産分割協議に参加すべき相続人は11人となります。また、花子さんの相続分は5/6となり、残り10人の相続人がそれぞれ1/60の相続分となります。


4 注意点


 なお、相続分の譲渡では、不動産の相続登記ができない場合があるので、遺産に不動産がある場合に相続分の譲渡をしようとするときは、事前に相続登記ができるかどうかを確認する必要があります。また、調停申立をすることになった場合も、相続分の譲渡をした相続人が調停の当事者から除かれるためには、手続が必要となります。


 遺産分割でお困りのときには、お気軽にご相談下さい。