相続放棄とは?

-相続放棄とは?- 【2016年1月号】

弁護士  池  田  篤  紀



 比較的相談の多い「相続」の分野から、今回は、「相続放棄」という制度について紹介します。

 相続が開始しますと、相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利、義務を自動的に引き継ぎます。しかし、相続人は必ず相続をしなければならないということになると、被相続人が借金ばかり残していたような場合には、たまったものではありません。

 そこで、民法は、こうした事態に対応するために、「相続放棄」という制度を用意しています。相続放棄と似た制度として「限定承認」という制度もありますが、今回は割愛させて頂きます。

 以下、「相続放棄」の概要について説明します。

 1 相続放棄とは?

 相続放棄とは、相続人が初めから相続人でなかったことになり(民法939条)、プラスの財産もマイナスの財産もまったく相続しないというものです。つまり、被相続人に多額の借金が存在した場合、相続人は、被相続人の死亡により、自動的に多額の借金を支払う義務が発生しますが、相続放棄により、これを免れることができます。

 2 相続放棄はいつまでにすればいいのか?

 (1)原則

 相続放棄の期間は、相続の開始を知ったとき(多くの場合は、被相続人の死亡時)から3か月とされています(民法915条)。

 (2)例外

 相続放棄の熟慮期間は3か月ですので、相続放棄をするか否かの判断は、極めて短時間で行わなければなりません。しかし、3ヶ月過ぎてから、被相続人に多額の借金があったことが発覚したという事態は容易に想定できます。そのため、判例は、①相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、②そう信じたことに相当な理由があると認められるときには、「相続財産の全部又は一部の存在を認識した時点又は通常これを認識し得べき時から起算する」(最高裁S59年判決)という扱いをしています。

 3 相続放棄の手続きは?

 相続放棄は、「家庭裁判所」を通して手続きをしなければなりません(民法938条)。債権者から「お金を返し下さい。」と言われ、「私は相続放棄するので、返しません。」と債権者に対して意思表示しても、相続放棄の効果は発生するわけではないので、注意が必要です。この点について誤解されている方が多いと思われます。

 4 その他注意事項

 (1)相続を承認したとみなされる場合

 相続放棄が出来ない場合として、次の事情が挙げられます。

 ・ 相続人が相続財産を処分(例えば売却)した場合(※処分に該当するか否かについて多くの裁判例が存在します。)
 ・ 相続放棄をした後であっても、相続財産を隠匿していた場合やひそかに消費していた場合 上記の場合は、相続放棄と矛盾する行為と評価されるので、相続を承認したものとみなされます(民法921条)。

 (2)相続放棄を取消したい場合

 相続放棄をしても、それが他の相続人から「被相続人には多額の借金があった」、「相続放棄をしないと危害を加える。」と言われていたなどの場合(民法919条2項)は、相続放棄を取り消すことができます(民法96条)。

 相続放棄に限らず、相続に関する問題は難しいことも多く、お困りの際は当事務所にご相談ください