電子契約で注意するポイント【2024年10月号】弁護士榎本修

 

 IT化で「契約書は電子契約にしたい」ということも増えました。電子契約には多数メリットがありますが、注意点もいくつかあります。

 

● 電子契約のメリット 

 電子契約には、①印紙税の節約、②郵送の手間暇・費用のカット、③保存場所の削減というメリットがあります。特に大きいのは①の印紙税です。例えば商取引基本契約書のような「継続的取引の契約書」を紙で作ると4,000円、双方のため2通作ると8,000円印紙が必要です。印紙を貼らないと税務調査で印紙額の3倍の税額を納付させられることもあります(印税法20条)。たくさん契約書があると何百万になります。電子契約ならこの印紙税負担を免れられるので大きなメリットです。 

 しかし、注意点もあります。

 

●注意ポイント① 成立日はいつ?

 電子署名では、契約書に記載された日付と別に実際に「○月○日○時○分」に成立したという証明書等が発行されてメールで送信され、その時点で契約が成立する仕組みになっていることが多いです。すると後から見たときに「実際の契約の成立日はいつなのか?」が問題になります。契約書の日付とこの証明書の日付は一緒でないことの方が多いでしょう。①先付け(契約書の日付より証明書の日付が前になること)もあるとは思いますが、むしろ②バックデート(電子契約の成立証明が後付けになること)の方が多いでしょう。電子契約が成立したというメールだけで満足してしまい、後から見ると実際に双方の意思表示が合致したのがいつなのかがわからなると困ります。まず、きちんと証明書をダウンロードして保管しておくことが重要です(紙でなくPDF等でも構いません)。

 また、①先付け②バックデートでも内容に問題がないかどうかを各契約書の内容に応じて確認することが重要です。

 

●注意ポイント② 無権代理リスク

 電子契約の相手方が社長以外の担当者である場合も多いでしょう。後から、「そんな奴に契約締結の権限は与えていない」と主張されると無権代理として契約が無効となるリスクがあります。これは「印鑑」時代にはクローズアップされなかった「なりすまし」以前の問題です。

 対処法としては、①事前に登録フォームでメールアドレスを登録、②契約書に締結権限確認(表明保証)条項を入れる、③代表取締役のメールアドレス以外での電子契約締結を禁止する、などがよく紹介されていますが、それ自体が後から否認されたら結局同じ問題になります。④秘密鍵(署名鍵)とパスワード・二要素認証などで端末管理を明確化する方法も、その管理自体が後から問題になれば同じことです。その他いろんなことが言われていますが、それぞれ問題があります。結局のところ、㋐代表者から担当者宛の実印+印鑑証明書付委任状(メールアドレスつき)を書面でもらう、㋑その旨を確認する契約書(印鑑証明+代表者印つき)をもらうというレトロな方法になると思われ、大手インターネット企業でもその種の方法を用いているとも言われています。

 

 電子署名についても、印鑑証明書にかわるような公的な認証を国が設営しない限り問題は解消せず、しばらくは試行錯誤が続くように思われます。