相続・遺産分割の相談について【2022年5月】弁護士安田剛

 

Q.先日、父親が亡くなりました。父親の残した財産について、相続手続をしたいと考えていますが、以前から介護施設に入っている母親の認知症が進行しており、とても母親と遺産分けの話し合いができるような状況ではありません。どうしたらいいでしょうか。なお、父親の相続人は、母親と、長男である私、遠方に住む私の妹の3名です。

A.遺産分割については、遺言書があれば、遺言書の内容に従って相続手続を進めることになりますが、特に遺言書なども残されていない場合であれば、相続人間の遺産分割協議により必要な手続を進めることになります。

 しかし、上記設例のように、相続人の中に、認知症の進行などにより有効な遺産分割協議ができない方がいらっしゃる場合、そのままの状態では遺産分割協議を成立させることはできません。

 このような場合には、母親の認知症の症状いかんにもよりますが、母親の代わりに財産管理等を行う「成年後見人」を選任する必要があります。成年後見人を選任するためには家庭裁判所の審判手続が必要です。

 したがって、上記設例のような場合には、母親の成年後見人選任の申立てを家庭裁判所に行い、その上で選任された成年後見人と、長男であるあなた、あなたの妹の3名で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する等して、相続手続を進めることとなります。

 

Q.先の事例で、母親の成年後見人には、以前から長男である私が選任されており、私が母親の財産管理等を行っていました。この場合、成年後見人である私が、母親の代わりに遺産分割協議を行うことにより、父親の相続手続を進めることができるでしょうか。

A.これはできません。

 長男であるあなたの立場としては、父親の相続人の一人であるという立場と、同じく相続人の一人である母親の成年後見人(法定代理人)としての立場の2つが併存することになります。もしあなたが、自己の利益を優先させて、父親の遺産を多く取得するような遺産分割協議を進めた場合、その分、母親の遺産の取り分は少なくなることになります。このように相続人の一人(長男)であるという立場と、母親の成年後見人としての立場は、相容れないものであり、利害相反が生じるため、あなたが母親の成年後見人として遺産分割協議を行うことはできません。

 この場合には、母親について裁判所に「特別代理人」を選任してもらう必要があります。そして、この特別代理人と、長男であるあなた、あなたの妹の3名で遺産分割協議を行うことになります。

 

Q.亡くなった父親には、特に資産はありませんでしたが、亡くなってから数カ月経過したある日、長男の私宛に借入金の請求書が届きました。どうも父親が家族である私たちに内緒で金融機関から借入をしていたようです。支払わなければならないでしょうか。

A.家庭裁判所に相続放棄の申述をすることにより、支払いは不要となります。「相続放棄」については、①正式には家庭裁判所の手続が必要となること、②相続が発生してから一定の期間制限があり、その期間内に手続する必要があること、③相続放棄申述の手続をとる前に遺産を処分する等していると相続放棄ができない場合があることなど、留意点もいくつかありますので、注意が必要です。