「脱ハンコ」で電子文書化 ~電子署名って何?~【2020年10月号】弁護士坂典子
1 はじめに
新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに「ハンコ文化」に対しての見直しの機運が高まっています。しかし、「脱ハンコ」や契約書のペーパーレスに向けて何を検討したらいいのか等を調べようとしても、聞きなじみのない、似たような言葉が並び、複数の法律で規定されていることから煩雑な面も多いです。そこで、電子文書化に向けて、基礎用語「電子署名」を解説します。
2 「脱ハンコ」・電子文書の方法:電子署名(電子署名法2条1項)
「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報(電子文書等)について、①本人性、②非改ざん性の要件を満たした「措置」をいいます。この「措置」が具体的に何を指すのかは、電子署名法に明記されていません。そのため、電子署名法における電子署名には複数の種類があり、どの種類の電子署名を利用するかは、電子署名を利用する目的や、電子文書の性質、コストや利便性などを勘案して選択していくことになります。例えるなら「ハンコ」に三文判から実印まで用途に応じた種類があるのと同じでしょうか。
3 電子署名法の電子署名の分類
当然電子署名では、どれが作成者本人の電子署名なのか分からないという問題が発生するおそれがあります。
そこで、簡単に言えば、第三者により文書作成者と署名者とが合致することを証明する業務(認証業務:電子署名法2条2項)が存在します。例えば、電子署名で一般的に利用される公開鍵暗号方式では、電子認証局が署名者に関する電子証明書を発行し、相手方はその電子証明書を使って署名者を検証するという仕組みが取られています。電子証明書を発行する電子認証局の業務が、認証業務です。
ただし、認証業務は、民間の事業者が自由に行うことができ、認証された電子署名であっても、当然に真正な成立の推定効(電子署名法3条)を受けるとは限らないので注意が必要です。
認証された電子署名のうち、法令に定める技術基準に則って認証された電子署名を「特定認証された電子署名」といいます。例えると、複雑な書体を使った偽造されにくい印鑑といったところでしょうか。
さらに、「特定認証された電子署名」の中で、主務大臣が設備・本人確認の方法・業務体制等が一定の認定基準を満たすと認定した認証事業者により認証されたものを「認定認証された電子署名」といいます。例えると、実印を押印し、印鑑証明書を交付するといったところでしょうか。
我々の日常生活の中でいえば、マイナンバーカードのICチップには、署名用の電子証明書と利用者証明用電子証明書が格納されています。公的機関による認証は、信頼を得やすく、利用料も比較的低額ですが、利用に制約があるなど利便性に欠けることも多いのが現状です。
4 最後に
以上のとおり、電子署名と一言で言っても「ハンコ」と同様に様々な種類があり、如何なる文書も電子署名による電子文書化が相応しいわけではありません。電子署名に向いているか否かを書類の性質ごとに検討することが必要です。