「法廷で録音」 は何故いけないの?【2026年8月号】弁護士榎本修

 ネットニュースで話題になっていましたが、原発差止訴訟で電力会社の社員などが、法廷で無断録音していた問題で、会社や電事連(電気事業連合会)が「お詫び」をしました。

 「法廷で録音」は何故いけないのでしょうか?単純に言えば「ルール違反」だからです。民訴訴訟規則(77条)は、法廷での録音は、裁判長などの許可を得なければ「することができない」と定めています。今回の録音は、この規定の正面から違反で「アウト」です。

 でも考えてみると変な話です。何で、法廷で録音してはダメなのでしょうか? 昔「レペタ訴訟」という有名な憲法訴訟がありました。アメリカ人のレペタさんが法廷傍聴のときメモをとっていたら、当時の裁判所傍聴規則(3条)に違反するといって制止されました。

 アメリカでは法廷でメモをとるのは当然に認められています。そこで、アメリカ人のレペタさんは訴訟を起こしたのです。結局、国(裁判所)は「裁判所としては、今日においては、傍聴人のメモに関し配慮を欠くに至つていることを率直に認め」今後は、メモについて「配慮をすることが要請されることを認めなければならない」と判示しました(最高裁平成元年3月8日判決)。こんなことを最高裁が自分でいうのは珍しく、これは裁判所という組織の実質的敗訴です。これは「レペタ法廷メモ訴訟」という判例になり、今の司法試験受験生は全員知っていなければいけない超重要判例です。

 だったら録音も同じでは?メモと録音とで違うのでしょうか?今やスマホで誰でも簡単に録音可能です。私が事件で交渉していても「この人は、どうもコッソリ録音しているな」という人に会うことがあります。

 裁判所が法廷録音を禁止するのは「録音は証人にプレッシャーを与えるから」とも言われます。本当でしょうか?

 外国では、法廷がインターネットやテレビで中継される国もあります。一方で裁判の内容は、特に刑事事件など死体の証拠や、当事者だけのプライベートで隠しておきたい内容もあり、録音されたりインターネットで公開されるなら、訴訟なんて起こすことができないと皆が震え上がり(チリング・エフェクト)、裁判を受ける権利(憲法32条)が侵害される、とも言われます。

 私は、今回の一番の問題は「コッソリ」やったことだと思います。本当に必要なら正々堂々とやればよかったのです。弁護士は依頼者のために頑張るのが仕事なので、あくまで依頼者の方が望めばですが、法廷で録音することがご希望であれば、私は裁判所と正々堂々と戦う作戦を取るでしょう。

 今回は法廷での録音についてでしたが、法廷に限らず「録音」は最近、多くの事件で証拠として登場します。でも、意外と良い証拠とは評価されないことも多いのです。次回は「録音、LINE画像、動画は事件の決定的証拠になるか?」というテーマをご説明したいと思います。