事業承継は“まだ先”ではなく、“今から始める”時代へ

 日頃、多くの経営者の方とお話をしていると、「まだ自分が引退するつもりはない」「元気なうちは自分で続けたい」というお話を伺うことがあります。実際、長年にわたり会社を支え、現場の最前線で経営判断を続けてこられた経営者の皆様には、強い責任感と行動力があり、その姿勢には常に敬意を抱いております。

 もっとも、近年の実務では、事業承継は「引退直前に考えるもの」というよりも、「元気なうちから少しずつ準備を進めていくもの」という考え方も一般的になってきているように感じます。

 事業承継というと、「子どもに継がせるかどうか」というイメージを持たれる方も多いのですが、実際にはその方法は様々です。親族への承継だけでなく、役員・従業員への承継、M&Aによる第三者への承継、事業譲渡、持株会社化など、会社の状況に応じて複数の選択肢があります。そして、どの方法を選ぶかによって、必要となる準備や法的対応は大きく異なります。

 実務上、事業承継は税務面から検討されることが多く、税理士主導で進められるケースも少なくありません。もちろん、株価対策や相続税対策は極めて重要です。しかし、事業承継には税務だけでは整理できない法的問題も数多く存在します。例えば、株式を親族に承継した後、他の相続人との間で遺留分を巡る紛争が発生するケースがあります。また、旧代表者の個人保証が残ったままとなり、後継者や会社に想定外の負担が生じることもあります。

 さらに、M&Aでは、契約書の内容が極めて重要です。表明保証条項や競業避止条項の設計が不十分だったために、売却後に損害賠償請求へ発展する事例も実際に存在します。

 このように、事業承継には、会社法、民法(相続など)、労働法など、多岐にわたる法的論点が含まれています。

 弁護士は、単に契約書を作成するだけではなく、株主構成や定款の見直し、役員体制の整理、保証関係の調整、M&A契約のリスク分析など、承継全体の法的リスクを整理し、将来の紛争を予防する役割を担います。

 事業承継は、単なる「出口戦略」ではありません。誰に、どのような形で会社を引き継ぐのかという問題は、会社の10年後、20年後を左右する重要な経営判断です。「まだ先の話」と考えているうちに、選択肢が狭まってしまうケースも少なくありません。まずは、自社にどのような承継方法があるのかを知ることから始めてみてはいかがでしょうか。