未管理著作物裁定制度【2025年12月号】弁護士加藤幸四郎
1 はじめに
デジタル化・DXの進展により、誰しもが著作物を容易に利用できるようになっています。そのような中で、インターネット上のコンテンツの利用には、コンテンツの利用に著作権者等の許諾を得るという著作権法の原則を守ると、許諾までのコストがかかり適正な利用に結びついていないという課題があり、未管理著作物裁定制度が新設されました。
「著作権法の一部を改正する法律」が、第211回通常国会において、令和5年5月17日に成立し、同年5月26日に令和5年法律第33号として公布されました。その改正で定められた未管理著作物裁定制度(著作権法(以下、略します。)67条の3)は令和8年4月1日に施行されます(令和7年政令第195号)。
2 未管理著作物裁定制度
未管理著作物裁定制度とは、「未管理公表著作物」(67条の3第2項)、ざっくり言うと、集中管理がされておらず(67条の3第2項第1号)(例えば、ジャスラックのような著作権を管理する団体において著作権が管理されていないイメージです。)、その利用可否に係る著作権者等の意思が明確でない著作物(同第2号)について、文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払うことで、時限的な利用を可能とする制度です。
3 裁定の要件
裁定の要件は、①当該未管理公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を確認するための措置として文化庁長官が定める措置をとったにもかかわらず、その意思の確 認ができなかったこと(67 条の3第1項第1号)及び②著作者が当該未管理公表著作物等の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと(同2号)です。
4 現行制度との比較
現在既に、著作権者等が不明又は不存在であることを前提に長期的な利用を可能とする著作権者不明等の場合の裁定制度があります(67条)。これに対し、未管理著作物制度は、著作物当の利用の可否に係る著作権者等の申し出によりその意思が確認できた場合には、制度による利用は停止するという時限的な利用を可能にする点がポイントの1つといえます。
5 対象とならないもの
以下のものは対象とならないためご留意ください。
(1) 利用ルールが明記されているもの
「無断転載禁止」「非営利なら許諾不要で自由に利用OK」などの記載があれば、その指示に従う必要があります。
(2) 利用についての問合せ先が明記されているもの
問い合わせる必要があり、応答があれば、その指示に従う必要があります。
(3) 連絡先があり、利用について連絡したところ応答があったもの
(4) 管理団体による集中管理がされているもの
6 おわりに
未管理著作物裁定制度を利用することで、特にインターネット上の著作物の利用の余地が広がります。意外と知らず知らずのうちに著作権法の規定に違反してしまうこともありますので、コンプライアンス(法令等の遵守)が声高に叫ばれる昨今、是非とも著作権法の規定を押さえていただければと思います。
