信託を利用した事業承継
信託を利用した事業承継 ~後継ぎ遺贈型の受益者連続信託について~ 【2008年9月号】
弁護士 今 井 千 尋事業承継について、ライトハウスニュース3月号で、「近時の信託法改正により、信託を利用することにより“後継者の後継者”も指定することが可能になりました」とお知らせしました。今回はこの制度(後継ぎ遺贈型の受益者連続信託)についてご紹介したいと思います。
まず、信託とは、委託者が信託行為(契約、遺言など)によって受託者に財産を移転し、受託者が一定の目的に従ってその財産を管理・処分する制度です。そして、通常は、受託者の財産管理・処分によって生じた信託利益を受ける受益者が設定されます。受益者は委託者自身でも、委託者以外の者でも構いません。
そして、信託法の改正によって明文化された後継ぎ遺贈型の受益者連続信託とは、受益者が死亡した場合に他の者が新たな受益権を取得する旨の定めのある信託です。つまり、一定の期間制限こそありますが、委託者が現在の受益者のみならず、その次の受益者を指定することができるのです(そのまた次の受益者を指定することも可能です)。ちなみに遺贈の場合は、遺言者においてある財産の遺贈を受ける者を決めることはもちろん可能ですが、当該財産のその後の行方を決めること(これを「後継ぎ遺贈」といいます。)は出来ないとされています。
このことを事業承継の場合(例えば中小企業のオーナー社長A)に即して考えると、Aは株式を遺贈すれば会社の支配権を後継者と考えるBに引き継がせることは可能ですが、Bの後継者をCにするか、Dにするかを決めることは(法的には)できないのです。これに対し、信託という法形式を使い、受益権の中に株式の議決権の行使について受託者に対し指図する権利を含めておけば(議決権を実際に行使するのは受託者です。)、受益者の指定を通じてBの後継者をDに決めることが可能になるのです。これにより、適任と思われる者へ順次会社の支配権を移すことが可能になります。
また、Aが自社の株式を信託して自らを第1次受益者(自らの生存中)、配偶者を第2次受益者(自らの死後かつ配偶者の生存中)、子を第3次受益者(配偶者の死後)としておけば、会社の支配権の円滑な承継に加え、自らの死後における配当を通じた配偶者の生活保障を図ることも可能でしょう。
さらに、会社の支配権の円滑な承継と配偶者の生活保障という目的を突き詰めれば、配偶者と子を共同第2次受益者とし、配偶者には配当を受領させ、子には議決権行使に関する指図権を与えるとの設計も考えられますが、このような信託も可能であると考えられています。
また、後継者の独断を防止したいと考えるならば、議決権行使に関する指図権の一定割合を後継者以外の者に与えるとの設計も可能でしょう。
このように、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託は、信託の定めを工夫することによって委託者のニーズに応じたきめ細かな財産承継を実現できる制度であり、事業承継の分野への活用が大いに期待されています。
事業承継計画を立案される際には一度ご検討されてはいかがでしょうか。