判例(裁判例)について【2023年5月号】弁護士榎本修

 

 今、日本には2,107の法律があります(2023年5月20日現在)。これだけ法律があれば、どんな問題も解決しそうですが、実際にはその法律の解釈や適用について争いが生じることも多いです。そんなときは「過去の裁判例(判例)」が重要になります。

 

判例(裁判例)のデータベース

 日本全国の裁判所で毎日のように判決がされていますから、それを調べることは簡単ではありません。もともとは「判例時報」「判例タイムズ」といった判例雑誌や最高裁判所民事判例集(民集)といった公式判例集(裁判所が編集・出版しています)を調べることが多かったのですが、最近は判例を紹介する雑誌が増え、裁判所自身も一部判例を最高裁HPに掲載するようになったことなどから、公表判例は前より爆発的に増えました。とすると、このような判例雑誌や公式判例集を都度眺めているだけでは、とても目的の判例にたどりつけません。そこで、多くの会社が判例情報を収集して商用データベースを売り出しています(Westlaw Japan、判例秘書.JP、1-Law.com、LEX/DB インターネットなど)。

 

判例調査

 しかし、このような判例データベースをどのように使いこなして裁判例を調査するか、というのも意外と難しいところがあり、簡単ではありません。

 関係しそうな法律の条文が分かっていれば、例えば「特許法29条に関する判例」というように条文から検索することもできるのですが、実際に問題となるようなケースは、どの条文を使って考えるかという点も明確ではない場合もあります。何をキーワードにして「&」でくくって検索するか、どの用語を除外して検索するかということも重要ですし、あまりに抽象的な用語で検索すると800や1,000の判例がヒットしてしまい、とても読み切れないので絞り込み方も重要になります。

 

判例を見落としてしまうと・・・

 これは面倒だなと思って判例の調査をさぼると、裁判所で上手く裁判を進められませんし、法律相談に間違った回答をすることになりかねません。多数の裁判例の中でも特に最高裁の判例には重きが置かれており、例えば「前にした最高裁判所の判例」と「相反する判断」をしてしまうと最高裁に対して上告受理の申立て(民事訴訟法318条)がされて、折角した判決が破棄されてしまうことがあります(このように上級審で判決が破棄されることを裁判官はよく「破られる」と表現します)。上で破られてしまうような判決を沢山書く裁判官は、裁判官の人事評定で低く評価されるとも言われており、裁判官は判例に反する判断をしないように注意していることが一般です。

 

日々新しい判例が・・・

 裁判所では今日もまた、新しい判例が生み出されています。例えば今、「チャットGPT」で作った文書の「著作権」の問題を調べるために検索してもヒットする判例は0件ですが、「AI」で検索すると知財高裁令和5年2月の判決を先頭に33件の判例が検索できました。当事務所では御相談を受ける事案に適切な判例を調査し、適切なご回答ができるように判例データベースを活用するなど日々努力を続けています。