こども基本法【2022年6月】弁護士杉浦宇子

 

1 令和4年6月15日、国会において「こども基本法」が成立しました。これは、子どもに関する施策に取り組む際の基本的理念、国等の責務を定める基本法です。

 この基本法でなにより重要なのは、子どもを権利の主体として認め、日本国憲法及び児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)の精神にのっとり、ひとりの人間として尊重すべきことを明確にしたことです。

 もちろん、現代においては、このような基本法がなくても、当然子どもも権利の主体であると考えられています。

 しかし、歴史的には、子どもは、人権思想が出てきたときから大人と同じ人権主体と捉えられていたわけではありませんでした。大人は人間としての完成体で、子どもは未熟・未完成と捉えられ、慈恵的は保護の対象・客体とのみ捉えられる時代がありました。今でもともすると「大人は子どものためを考えているのだから、子どもは大人に従っていればよい」という感覚に無意識に支配されて、子どもに重大な影響のなる事柄を決めるのに、子どもの意見が全く聞かれずに大人だけで決められることに何の違和感も持たないこともあるのではないでしょうか。

 子どもの虐待、犯罪被害、体罰、ブラック校則、部活動のしごき、不登校・・・子どもを取り巻く状況には心が痛みます。

 私が所属する愛知県弁護士会「子どもの権利委員会」では、このような子どもを取り巻く問題に取り組んでおり、その際には、子どもを権利の主体としてとらえ、子どもの視点に立つことを大切にしています。「子どもを権利の主体として認める」ことが忘れられるところで、より子どもに辛い状況が現れている現状があるからです。

4 子どもの権利条約や日本国憲法があっても、多くの大人は「子どもの権利」についてその具体的内容を知らないし、それが子どもにとってすごく大切なことだということを学び実感する機会をもたないでいます。

 このような状況の中、歴史的に子どもを保護の対象・客体と捉えてきた感覚を乗り越えて子どもを権利主体として扱うように至るよう大人を意識的に進化させるためには、子どもを権利主体として扱うことを明確にする「こども基本法」の制定が必要だという声は以前から根強くありました。「こども基本法」はようやく実現した第1歩といったところです。

 子どもの権利条約は、1989年第44回国連総会で採択され1990年に発効し、日本も1994年に採択しています。ユニセフのホームページには、分かりやすくイラストを使って解説されています。「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」どれも子どもがその子らしく豊かに成長するために不可欠だと心から感じられます。お時間あるときに訪問してみて下さい。