弁護士の証拠収集 (ローヤリングの考え方から)【2021年3月】弁護士榎本修

 

●弁護士が事件を受任することになりました

 さあ、どうやって証拠を探してゆきましょうか  

 弁護士は、事件を受任すると「こちらの主張を裏付ける証拠を探そう」ということになります。この30年ほどの間に、インターネットやSNS、携帯電話やメール・LINEなど通信手段が発達し、証拠資料は爆発的に増えた中、弁護士は、どういう方針で証拠を集めてゆくのが良いでしょうか。

 

●ローヤリングの考え方  

 このような弁護士業務のあり方を研究・教育するのが「ローヤリング」(“Lawyer”+ing)です。私は、2004~09年に愛知大学法科大学院、18~21年に名古屋大学法科大学院で弁護士実務家教員として、この「ローヤリング」の授業を担当してきました。今般、法科大学院教員を終えるにあたり「卒業論文」として、名古屋大学法学部の紀要(研究論文をまとめた刊行物)に発表してゆくことにしました。19年「法律相談」から開始し「事件受任」「交渉」「ADR(裁判外紛争手続)」と続き(名古屋大学法政論集282号以下。https://researchmap.jp/oenomoto)、今、最後の「事実調査・証拠収集、委任終了」を執筆中です(7月発行予定)。

 

●証拠収集とローヤリング  

 私は、弁護士の証拠収集は、もっと裁判所を意識する(「要件事実」というものが大事になります)と同時に、それに限らず、「紛争解決に役立つ事実」(例えば、相手の資力・紛争発生の経緯や税金の軽減に役立つ事情)も強く意識されるべきこと、過去の事実を認定するという意味では「歴史学」が「史料」に基づき事実認定するのと共通する点があること(古く、イギリスのE・Hカーが「歴史は現在と過去の対話である」と言ったように、現在の視点から過去に焦点をあてて証拠収集する意識を持つこと)の3点が大切だと考えています。    

 

 論文執筆のため、今回歴史学の本をいくつか読み、興味深く思いました。日本への鉄砲伝来は、私たちの大学受験時代は「1543年(イゴヨサンかかる鉄砲伝来)」と覚えましたが、近時の史料研究により1544年とする説も高校の歴史教科書に記載されているようです。弁護士の事件処理にあたっても「事件の発生日時」を証拠で認定するのは大切な作業であり、歴史学から学ぶことがあると思います。  

 そして何より、このように方針を立て、積極的熱意をもって依頼者の皆さんと「協同して」証拠を探し、検討する姿勢が大切だと改めて感じました。  

 私は、ローヤリングの目的は「依頼者の皆さんの納得と安心」であり、そのためには事件処理において「より良い選択肢を依頼者の皆さんと一緒に開発し、その中で良いものに絞り込んでゆくこと」を大切と考えていますが、その作業を行うためには、弁護士が上記の3つの視点を十分に意識しつつ、依頼者の皆さんと証拠を一緒に熱心に探し、検討することが重要だというのが弁護士としての実感であり、今回の研究の結果です。  

 顧問先の皆様のご相談に、このローヤリングの考え方を活かし、更なる弁護士業務の改善を図りたいと考えています。